答えのその先に、私たちは


誰かを好きになるたび、その人の色に染まっていく。

鳴瀬(ナルセ) 朱莉(ジュリ)は、そういう子だった。

好きな人が黒い服を好めば黒ばかり着るし、
派手な子が好きと聞けば、突如綺麗だった髪を染めてギャルメイクをするようになる。

彼が映画好きなら、興味なんてなかったくせに、
休日だけでなく、毎日寝る間を惜しんでその人の好きな作品を探している。

髪型だって、聴く音楽だって、そのとき隣にいる人によって変わる。

それなのに、

はたまた、それだからなのか、不思議なくらい、男子にはモテた。


「鳴瀬さんって、ほんと彼氏できるよね」

昼休み、机を前後にくっつけて2人でお弁当を食べていると、クラスメイトのひとりがそう笑って話しかけてきた。

「まあね。朱莉は可愛いから」

「自分で言っちゃうんだ」

「だって事実じゃん?」

彼氏できるよね、ということは彼氏が変わる頻度高いよね、という皮肉でもあるんだろうけど、本人は気にしていないのか、ましてや気付いてないのか。

どっちかはわからないが、朱莉は悪びれることなくケラケラ笑ってた。

その様子を見て面白くなかったのか、話しかけてきたクラスメイトは離れて行った。

その後すぐに朱莉は私の弁当から卵焼きをひとつ奪った。


「ん!奏(カナ)、これおいしい〜」

『……勝手に取らないでよ』

「いいじゃん、1個くらい」

出会った頃から変わらない無邪気な笑顔。


けれど、私は知っている。

朱莉が新しい彼氏と付き合い始めるたび、少しずつ何かを変えていることを。

そして、別れるたびに何事もなかったみたいに私のところへ戻ってくることも。


「ねえ奏」

『ん?』

「今度さ、髪切ろうと思ってるんだけど、どういうのが似合うと思う?」

『……また?』

「またって何」

『だって、この前も美容院行ってたじゃん』

「前の彼氏が長い髪好きだったからさ〜、キープすんの大変だったの!今度は普通に切んの」

『ああ……』

「たーくんは短いほうが好きなんだって〜」

朱莉はスマホから目を離さず操作しながら、楽しそうに笑った。


私は何も言えなかった。

本当は、言いたいことがある。

そんなに変わらなくていいのに。

誰かに好かれるために、好きでもないものまで好きにならなくていいのに。

ありのままの朱莉を好きになってくれる人を、探せばいいのに。

でも、そんな本音を口にしたことは一度もない。


だって、朱莉は私にとって、ただの友達じゃないから。

朱莉に出会う前の私は、今とはまるで違った。

人と話すのが苦手で、教室でも目立たないようにしていた。

そんな私に、最初に声をかけてくれたのが朱莉で。

あの日、朱莉が何気なく言ったひと言に、私は救われた。

だから私は、朱莉がどんなに私を後回しにしても、別の誰かに夢中になっても、友達でいることをやめられなかった。


周りからは何度も言われた。

「あの子と友達でいるの、やめたほうがいいよ」と。

それでも、私は離れなかった。

朱莉に救われた私が、朱莉を見捨てるなんてできなかった。

ーーその日までは。

*

それから少し経った、ある日の夜。

ベッドに寝転びながら、私はなんとなくインスタを眺めていた。

朱莉の投稿が流れてくる。

見慣れた笑顔。

その隣に、私。

少し前に撮った写真だった。


[親友と遊んだ〜!]

そんな文章と一緒に載せられた写真を、何気なくスクロールする。

そのときだった。

通知がひとつ届いた。

知らないアカウントからのフォロー。

アイコンを見ても、誰なのか分からない。

けれど、そのアカウント名を見た瞬間、指が止まった。


《MIO》

その名前に思い当たる人物は過去に1人しかいなかった。

ーー藤倉(フジクラ) 実緒(ミオ)。


『……え?』

胸の奥が、ほんの少しだけざわついた。

忘れたわけがなかった。

ただ、もう会うことはないと思っていた。


高校入ってすぐ初めて仲良くなって、

1年前まで、隣にいた人。

私がまだ、今の私になる前。

その頃の私を知っている、たった一人の友達。

急いでアカウントを見る。


恐る恐るフォローバックすると、すぐに1件のDMが届いた。

『ひさしぶり』

たった5文字だった。

なのに私は、しばらく返信することができなかった。