初恋、のちパパになる―憧れのあなたは母になっていた―


 *

 玲の搬送後、緊急手術が行われた。

 玲の右側の背部に生々しく突き刺さったナイフは、刃渡り十センチほどの小型ナイフ。刺創の深さは七~八センチにも及んでいた。刺さったナイフが創部を塞ぐ形になっており、下手に抜けば出血が増える危険があった。

「これは、酷いな……」
 執刀医が言った。

 右肺まで達している。大血管は外れているものの、傷痕は残る可能性が高い。

 「知人女性とその子どもを守るためだったとはいえ、まだこんなに若いのに……」
 無機質な機械音と金属音だけが、静寂に溶けていくように響く。

 *

 その後、玲は一か月ほど入院した。刃によって右肺を損傷していたが、大血管や心臓は外れていたのが不幸中の幸いだった。
 遙花は、蒼生と毎日のように見舞いに来た。

「玲君……ごめんね」
 玲のそばにいたい――その思いが日に日に増していく一方で、もう玲とは関わらない方が良いのではと思い始めていた。
「先輩のせいじゃないよ。それに、僕は生きてる。今のところ、後遺症もないって言われてる。治れば退院できるし、また普段と同じ生活に戻るだけだから」
「でも、痕が残るって……」
「そうだね。でも、これは先輩と蒼生君を守った証だから。むしろ誇らしいくらいだ。こんなかっこいいタトゥー、ないよ」
「タトゥーって……」
「タトゥーはちょっと違うか。まあ、多少の傷くらい残ることあるし。そういえば、僕の父さんにも似たような傷があるな。昔、心臓の手術してるから」
「玲君……」
「父さんは病気、僕は事件。違いはあるけど、生きてるってことは、それらと闘った証だから」
 玲は笑う。遙花にとっては、その笑顔が救いであるとともに、消えない傷を負わせてしまった負い目や罪悪感をより鮮明な記憶として残ることが苦しかった。