初恋、のちパパになる―憧れのあなたは母になっていた―


 通りの向こうから警察官の声が聞こえた。

「警察です!」

 玲の緊張が、ほんのわずかに緩む。

 複数の警察官がこちらへ駆けてくる。

 これで、もう大丈夫だ。
 そう思った玲は、ほんの一瞬だけ遙花たちの無事を確認しようと視線を逸らした。



 その一瞬だった。

「玲君!」

 遙花の叫び。

「え……」

 右の背中に、強い衝撃。

「……っ」

 息が止まった。

 何が起きたのか、すぐには分からない。

 ただ。

 背中が、刺すように熱い。

「先、輩……」

 膝から力が抜ける玲。

「玲君! 嫌ああ!!」

 遙花が駆け寄ろうとする。

 それでも玲は、最後まで遙花ではなく、その腕の中を見ていた。

 (蒼生君、泣いている……でも、生きている。無事だ)

「……よかっ、た……」

「何がよかったのよ!」

 遙花の声が震える。

「玲君がこんなことになって、何が――!」

 玲はそれ以上答えられなかった。

 背中にナイフが刺さったまま。

 崩れるように、路上へ倒れる。

 それでも。

 倒れた玲の身体は最後まで、遙花と蒼生と男の間にあった。

 男は逃走を図るものの、既に通報されておりその場で確保され現行犯逮捕された。

 救急隊員も同時に駆けつけ、玲はナイフが刺さったままの状態で病院へ搬送されていく。

「SpO2低下!」
「これは……胸部まで達している可能性があるな」
 意識が朦朧とする中、玲は遙花と蒼生のことを思った。

(僕は、二人を……守れたのかな……)

 視界に僅かに残った景色が遠ざかっていく。

(もし、このまま目覚めなかったら……ちょっと、いや、だいぶ……悲しいな)


 そして、玲は深い深い――眠りに落ちた。