初恋、のちパパになる―憧れのあなたは母になっていた―


 鋭い痛みに、身体が揺れる。

「玲君!」

「来ないで!」

 珍しく強い声だった。


 玲の左肩から、血が滲んでいる。

 それでも玲は、一歩も退かなかった。

 むしろ遙花と蒼生を庇うように、さらに前へ出る。

「先輩」

 息を整えながら、低く言う。

「職員さんのところまで下がって」

「でも――」

「早く!」

 遙花が息を呑む。

 玲がこんな声を出すのを、初めて聞いた。


 女性相談支援センターの職員が駆け寄り、遙花の腕を取る。

「こちらへ!」

「玲君!」

「行って!」

 蒼生君が激しく泣き出す。

「ああああっ!」

 その声に、玲の表情が一瞬だけ歪んだ。

 怖がらせている。

 早く終わらせなければ。

「大丈夫だからね、蒼生君」

 玲は小さく呟いた。

「パパじゃないけど……」

 ほんの一瞬。

 苦しそうに笑う。

「守るくらいは、させてよ」


 玲は左肩を押さえながら、遙花たちから距離を取らせるように動いた。

 自分が狙われるなら、それでいい。

 先輩に近づかなければ。

 蒼生に刃が向かなければ。

 それだけでいい。

「色目使って弁護士に取り入ろうってか。馬鹿な女だ」

「彼女を侮辱するな」

「部外者は黙ってろ」


「玲君! もういいから!」

 遙花の声。

 でも、退けなかった。

 玲が退けば、その先に二人がいる。

 だから。

「先輩は、蒼生君を守って」

 玲は男から視線を逸らさない。

「僕は二人を守るから」

「玲君……!」

「部外者に用はない。これは、俺とそこにいる女の問題だ。赤の他人が口出すんじゃねえよ。こいつをどうしようが、俺の勝手だ。ガキはどうでもいい。この女が死のうが、俺の知ったことじゃねえ。お前も死にたくなかったら、二度と関わるな」

 男は玲に刃先を向けて言い放った。

「それ以上は、あなたが余計に不利になりますよ」
 玲は毅然と返す。

 「うるせえ、この減らず口が! 部外者は黙ってろって言ってるだろうが!」
 男がナイフを振りかざす。

 その直後。