初恋、のちパパになる―憧れのあなたは母になっていた―


「私が女の子を産めなかったから。私が、息子を泣き止ませることができないから。私が――」
「先輩は悪くない!」
 玲が声を張った。
「今回の依頼は、僕が――」
「玲、待ちなさい」
「でも、先生」
「玲の気持ちはわかる。だけど、そこに私情を持ち込むのは絶対にダメだ。今回の依頼と、玲の私情とは、切り離して考えなければいけない。今の玲に、それができる?」
「それは……」
 玲は言葉を詰まらせた。どんなに救いたくても、勢いだけではどうにもならない。それを痛感した。

 武蔵は続ける。
「あなたは、ご主人との離婚を考えておられるんですね」
「はい」
「では、法テラスでも対応可能な離婚問題に強い弁護士に担当してもらうのはどうでしょう。当事務所所属の、阿部という女性弁護士です」
「ありがとうございます」
 結局、遙花の依頼には、離婚問題に強い、法テラスでも対応可能な四十代の女性弁護士に担当してもらうことになった。遙花は法テラスの民事法律扶助を利用して、正式に依頼をし、弁護士から女性相談支援センターに繋いでもらった後、避難に向けて動き始めることになった。
 そして、警察にも相談し、万が一夫が逆上した場合にも備える。なるべく早いうちに。
「あの……もうこのまま家に戻らず避難することはできますか? できればもう、帰りたくないので」
 遙花の答えは決まっていた。
 夫によって自分を責めるようになっていた。それでも蒼生を守ろうとする意思だけは失っていなかった。そのため、夫に気づかれないように荷物をまとめていたりはしていたようだ。
 そして、夫の留守中に女性相談支援センターの職員と一緒に荷物をまとめて母子で避難することになった。
 何も残さず、何も言わず。

 母子二人の生活が始まった。夫がいる生活よりも、はるかに平和だった。でも、外部との接触には制限があり、玲に連絡を取りたくても取れない。
 ただ、夫が逆上して襲撃してくる可能性も完全に消えたわけではないため、まだ安心はできない。