初恋、のちパパになる―憧れのあなたは母になっていた―

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 『リーガルウェポン』で描いた神城玲の恋模様を番外編として書こうと思ったところ、想像以上に深いテーマの物語になりました。
 初恋からいきなり父親になるって、どういうことやねん。
 そう突っ込まずにはいられない表題になったかと思いますが、これは単に玲が「元バイト先の先輩を助けたい」「子どもごと受け入れます」というだけのお話ではありません。
 始まりは、身近な人が苦しんでいるのを見過ごせず、何とか力になりたいと思ったことでした。

 遙花の痛みを前にして、玲は自分の気持ちを押しつけることも、見て見ぬふりをすることもできなかったのだと思います。
 けれど、遙花と蒼生が命の危機にさらされた瞬間、玲は考えるより先に身体を動かします。

 恐怖を感じる暇さえないほど必死に二人へ手を伸ばし、その矛先が自分へ向けられたとき、二人がいつの間にか、自分にとってかけがえのない存在になっていたことを自覚する。
 命をかけてでも守りたい。

 けれど同時に、その先の未来を二人と一緒に歩んでいきたいからこそ、このまま死にたくはないとも思う。
 守ることは、ただ自分を犠牲にすることではない。
 二人の隣に生きて帰りたいという願いまで抱いたとき、玲の中で「助けたい」という気持ちは、確かな愛へと変わっていったのだと思います。
 遙花も玲に好意を抱きながら、罪悪感から身を引こうとします。
 自分が玲の人生を縛ってしまうのではないか。
 蒼生まで背負わせてしまうのではないか。
 何度もためらい、玲の優しさから逃げようとする。
 それでも玲は、一度好きになった相手には真っ直ぐに想いを伝え、一歩も引きません。

 時間をかけて築いてきた信頼が恋になり、愛になり、やがて家族への愛へと変わっていく。
 凶行に及ぶ相手には毅然と立ち向かえるのに、恋愛となると初心者感が炸裂する。
 その不器用さもまた、玲という人間の魅力なのだと思います。
 言葉にするたびに照れ、迷い、それでも伝えずにはいられない。
 そんな玲の真っ直ぐさが、遙花の閉ざしかけた心を少しずつほどいていきます。

 そして、玲にとってもう一人、かけがえのない存在になったのが蒼生です。
 初めは抱くことさえ怖かった小さな赤ちゃん。
 けれど、共に過ごす時間が増えるにつれて、小さな手を預けられるたび、名前を呼ばれるたびに、玲の中には嬉しさと同時に「失いたくない」という切実な思いが積み重なっていきます。
 本当の父親ではなくても、少しずつ父親のように振る舞えるようになっていく玲。
 蒼生の成長を喜び、その一歩一歩を見守れることに戸惑い、胸を熱くしながら、玲自身もまた「父親になるための成長」を重ねていきます。

 そして最後には、法律上も正式な父親になる。
 血のつながりがなくても、家族にはなれる。
 血縁だけでは決まらない愛に包まれた家庭を、三人で築いていく。

 遙花が抱えていた罪悪感も、玲が抱えていた戸惑いも、そしてこれから蒼生が成長していく中で抱くかもしれない思いも、三人で過ごす時間の中で少しずつ形を変えていくのだと思います。
 完璧ではなくても、互いを思い、何度でも相手を選び、家族であることを選び続ける。
 それが玲の恋物語の終着点であり、同時に、新しい家族として歩き始めるための出発点でもあります。

 ちなみに余談ですが、バージンロードに見立てたフラワーペタルの演出は、若葉が考案したものです。
 息子夫婦と可愛い孫の新たな門出を、ロゼッタの雰囲気に合わせた演出で精一杯祝福したい。
 そんな若葉の愛が詰まった演出になっています。

 そして、蒼生の放った「リングボーズ」発言。
 これは、筆者の結婚式でリングボーイを務めてくれた、当時五歳だった甥の発言をそのまま起用しました。
 コロナ禍での結婚式。
 今ではもう懐かしい思い出ですが、甥は『鬼滅の刃』の水柱・冨岡義勇の隊服を着て、颯爽と大役を務めあげました。
 ――「リングボーズ」を。

 まさか数年後、小説の中でもう一度この言葉を使うことになるとは思いませんでした。
 玲と遙花、そして蒼生。
 三人がこれから先も、たくさん笑いながら家族になっていく未来を想像していただけたなら、とても嬉しいです。

 最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。