扉が開いた。
小さな蒼生が、リングピローを抱えて歩いていく。
一歩、一歩。
初めて歩いた、あの日の記憶が蘇る。
おぼつかなかった足取りが、今ではスキップをするように軽快に。
蒼生は、前へ前へと進んでいく。
大好きな、両親の元へ。
玲の視界が滲んだ。
「パパ」
ついに、玲の涙腺が決壊した。
もう、止められる余裕はなかった。
「ママ」
遙花の瞳が潤む。
「ぼく、リングボーズできた」
「ぶっ!」
玲が噴き出す。
「ちょっと、玲君。汚い……」
玲は慌ててハンカチを取り出した。
「く、警戒していたのに。結局やられた……」
泣きながら、玲は笑う。
「ほら、立って」
遙花が促す。
「……足つった」
「はあ!?」
「パパ」
蒼生が玲の足を踏んづけた。
「ああああ!!!!」
「もう、何やってんの……」
結局、玲はすぐに立ち上がれず……座り込んだまま指輪の交換をした。
「面目ない……」
玲はまだ立てない。
「いやぁねえ、こんな時に足つるなんて……。玲君。次、ちゃんとチューできる?」とジェームズ。
「無理……立てない」
「しょうがない子ねえ。それなら、もうこうしちゃいなさい」
ジェームズは、遙花と蒼生の背中を押し、玲を挟むように両側から頬にキスさせた。
「あ……」
「はい、おめでたいわねぇ~。妻と息子から、愛の洗礼よぉ~!」
「……それ、反則過ぎ」
玲は再び涙腺が緩む。
「ちょっとばかり予定外の展開になっちゃったけど、まあいいわ。それでは皆様、しばしご歓談を。時間の許す限り、楽しみなさ~い!」
「玲、おめでとう」
「武蔵先生」
「遙花さんも」
「あ、その節は、大変お世話になりました」
「蒼生君、立派に成長したね」
「はい、おかげさまで」
武蔵が玲たちと談笑していると。
「むーさしくーん、語りましょーう」
「父さん、酒くさ!」
「エディ君、久しぶり」
「いや、僕は昨日……君に会っているよ」
「え?」
「夢のな・か・で」
「う……」
エディは武蔵に絡み酒をしながら、武蔵の腕を引っ張っていく。
「何あれ。父さん、ヤケクソ感半端ないんだけど」
「ロゼッタで式やるの、最後まで嫌がってたしね」
「遙ちゃん、おめでとう!」
「ありがとう、瑠花ちゃん」
「うわ、何この臭い」
「父さん」
「無理! アルコール臭漂わせて絡み酒とか、マジ無理なんだけど」
「武蔵先生、大丈夫かな」
「あの暴走車両が」
「姉ちゃん、容赦ないな」
「あたしの式であれだけ飲み散らかしたら、マジでつまみ出すわ。ね、律」
「何でオレに振るわけ?」
「だって、今度はあたしたちの番だよ」
「それが?」
「あの飲酒暴走車両を止められるのは、律だけだから」
「そんなことはない。ほら」
視線の先に映るのは、若葉に叱られ小さくなったエディ。
「結局、母さんには敵わないってことだな」
ここは、カフェ・ロゼッタ。
玲の両親の思い出の場所であり、玲と遙花が出会った場所。
親子二代の恋の歴史が刻まれた、特別な空間。
そして。
ロゼッタにはこれからも、その恋の未来を祝福する者たちが集う――愛にあふれた、優しい時間が流れ続けていく。



