そして、玲と遙花の結婚式当日。
「遙ちゃん、綺麗!」
瑠花は遙花のメイクと衣装を担当した。
そして、ヘアセットは。
「うん、我ながら完璧」
エディは得意気に言った。
「あの……ヘアセットまでしていただいて、ありがとうございます」
「いや、これは僕がやりたかったんだ。こう見えて、花嫁さんのヘアセット、全然やったことなくて」
「そうなんですか? そんなふうに見えないですけど」
「次は玲のヘアセットしに行くから、また後でね」
「ありがとうございます、おとうさん」
「……!」
「あの、何か?」
「いや、娘が一人増えたような気がして」
「え……」
「来年には瑠花も嫁いじゃうし。寂しくなるなと思っていたけど……それだけじゃないんだなと思って」
エディは遠い目をしながら遙花に言った。
「今日の主役は君たちだ。これでもかってくらい、みんなから祝福されてきなさい」
「はい」
一方、玲は。
「玲、緊張してるね」
「うるさい」
「さっき遙ちゃんのヘアセットしてきたよ」
「え、父さんが?」
「他に誰がいる?」
「……姉ちゃんとか」
「瑠花はメイクと衣装をやってた」
「だいたい、聞いてないし。父さんが僕らのヘアセットやるとか」
「言ってないからね」
「うざ」
「ちなみに蒼生君のもやってきた」
「は?」
「かわいいねえ。『ぼく、リングボーズするの』だって」
「ぶっ!」
リングボーズ。
今日一番のパワーワードだな、と玲は思った。
蒼生のリングボーイ姿に泣く予定だったが、少々予定が狂いそうだ。
「蒼生君、可愛すぎる」
*
支度の済んだ二人のファーストミート。
「玲君……」
「……」
玲の瞳が一気に潤んだ。
「え、ちょっと……」
「無理……」
右手で顔を覆う玲。
「無理」
「何が?」
「遙花さんが、綺麗すぎて……」
「……まだ、式始まってないんだけど」
「それでも無理!」
遙花を直視できず、玲はただ一人悶えている。
「せっかくヘアセットしてもらったのに。玲君、くずれちゃう」
「うう……」
「ほら、新郎が先に行かなきゃなんだから」
遙花は、鏡に映った自身の姿を見る。
「私も、一つ夢が叶った」
「え?」
「ウェディングドレス」
玲は遙花を見上げる。
「私、結婚式……していなかったから。ドレス、初めて着たの」
「そ……そうだったんだ」
「できれば、両親にも……見せたかったけど。仕方ないよね」
「遙花さん……」
☆
遙花の両親には、遙花が電話で離婚したことと再婚することを伝えた。
蒼生の存在も、玲の存在も。
「ほら、やっぱりうまくいかなかった」――と母の呆れた声。
「もう、お前がどこで誰と結婚しようが関係ない。好きにしろ」――と突き放す父。
蒼生については。
「犯罪者の血が流れている子を、孫だと思いたくないわ。かわいいとすら思えない」
「これからも、会うつもりはない」
玲はたまらなくなって、両親に向けて電話口から声を放った。
「初めまして、神城玲と申します。このたび、遙花さんと結婚する運びとなりました。ご挨拶にも伺えず、急なご連絡になってしまい……申し訳ありません」
「あんたが、娘の再婚する相手か?」
「はい」
「娘には、犯罪を犯した男の子どもがいる」
「はい、知っています」
「人を殺すような男の血が流れている子を、君は可愛がれるのか?」
「あの……殺してはいないです。殺人未遂なので」
「同じことだ。むしろ、娘を庇って刺された彼が気の毒で仕方ない」
「ご心配には及びません。僕は生きているので。お気遣いありがとうございます」
「あんた、まさか……あの時に刺された弁護士の」
「はい」
「……そうか」
「あの、それが何か?」
「君は、まだ若いだろう。わざわざ子持ちのシングルマザーを選ばなくてもよかったんじゃないか」
遙花の父は続ける。
「遙花の子を、自分の子として育てていくつもりなのか」
「はい、初めからそのつもりです」
「子どもを育てるということは、並大抵のことではない。親になった以上は、その子の人生も背負う覚悟でいないと、親は務まらない」
「……僕はそう思いません」
「何故だ?」
「一人で背負う必要はないからです」
「……」
「それに、血のつながりがなければ子どもを愛せないとお考えの人に、親としての責任を説かれるいわれはないです」
「な……!」
「僕は、確かに蒼生君とは血のつながりがない。でも、彼を自分の子として育てたいと思うし、何より僕自身が、遙花さんと蒼生君のそばにいたい。一緒に生きていきたいと思っている。対してあなた方は、蒼生君と血がつながっているにもかかわらず、犯罪を犯した男の子どもというだけで可愛がれないと言う。これって、血のつながり……関係あります?」
「それは……」
「血のつながりがあるからこそ、受け入れがたいこともある。それは理解できます。でも、そもそも子どもには……何の罪もない」
「……」
「蒼生君は、とても可愛いです。今は三歳ですけど、僕は蒼生君が赤ちゃんの頃から知っています。オムツも替えて、ミルクも飲ませて。初めて歩いた日なんて、僕泣きましたからね。そのあと、蒼生君。僕に何て言ったと思います? 『ぱぱ』ですよ。そりゃ泣きますって」
「君は、私たちよりも……その子の成長を、間近で見てきたんだな」
「会いたくなりました?」
「いや、そこまでは――」
「そうだ。僕たち、今度結婚式挙げるんです。カフェ・ロゼッタという……あ、元々僕たちはそこで知り合ったんです。学生時代の、同じバイト仲間として」
玲は更に続ける。
「そこで、蒼生君にはリングボーイをやってもらう予定です。これは僕、絶対泣く自信しかありません。どうでしょう? この機会に、孫の顔でも見に来られては?」
「そんな、急に言われても」
「僕の顔はついででいいです。他人なので。でも、血のつながった実の娘の遙花さんと蒼生君の顔を見に来ることは、あなた方が主張する、『親の責任』ってやつじゃないですか?」
「少し、考えさせてくれ」
☆



