初恋、のちパパになる―憧れのあなたは母になっていた―



 そして、一か月後。
「おめでとうございます。確かに受理いたしました」

 玲と遙花は婚姻届を提出し、晴れて夫婦となった。
「まだ、実感沸かないな」
「でも、今日から僕と同じ苗字だよ」
「うん。しかも……」
「何?」
「本当に、いいの?」
「何が?」
「蒼生のことも、養子縁組までしてくれて」
 遙花は遠慮がちに言う。

「言ったはずだよ」
「え?」
「僕が、蒼生君のお父さんになりたいって」
 玲は迷いなく答える。
「僕たちが夫婦になった日に、その夢まで叶ったんだ。こんなに嬉しい日はないよ」
「ありがとう、玲君」

 役所から玲の実家に立ち寄る二人。
「パパとママ、かえってきた!」

 玄関先で、蒼生が真っ先に出迎えた。
「ただいま、蒼生。いい子にしてた?」
「うん! さっき、おねえちゃんとクッキーつくったよ」
「あ、玲。お帰り」
「姉ちゃん」
「先にお邪魔してるよ」
「律も、来てたんだ」
「遙(はる)ちゃん、こんにちは」
「瑠花ちゃん、こんにちは。蒼生のこと、面倒見てくれてありがとう」
「いいのいいの。蒼生君、すごくお利口さんにしてくれるからもう可愛くて。さっき一緒にクッキー作ったの。パパとママに見せるんだって言ってたよ」
 瑠花と遙花。名前の似ているもの同士であり、年の差も一つで、ほぼ同年代の二人。蒼生を若葉に預かってもらいに行った時に出会い、あっという間に打ち解けた。

「玲、婚姻届出せた?」
「うん」
「まさか、玲に先越されるとは思わなかったわ」
「来年は蒼生君も幼稚園の入園を控えているし、それに合わせて先に籍だけ入れようって話でまとまったから。まあ、そうなるよね」

 蒼生は来年の春から幼稚園に通い始める。新しい生活が始まる前に、三人の家族としての形を法律上も整えておきたいと考え、当初の予定より早く入籍することになった。

「律、あたしたちは来年だよね」
「うん」
「さっき式場の見学行ってきたの」
「へえ。どこかいいところあった?」
「うん。海の見えるチャペルで、料理がおいしくて、好みのドレスがいっぱいあるところ」
「姉ちゃんの理想ばっかじゃん。律には決定権ないの?」
「ない」
 幼なじみ同士で盛り上がっていると、エディと若葉が現れた。
「父さん、母さん」
 玲が席を立った。
「さっき、無事籍を入れてきた」

「そうか、おめでとう。玲、遙ちゃん」
「やっと夫婦になれたのね。二人とも、おめでとう」
「ありがとうございます」
「それで、蒼生君は?」
「それも、一緒に手続きしてきたよ」
「そうか。じゃあこれで蒼生君は……」
「うん。僕の子になった」
「パパ」
「ね、蒼生君」
 玲が蒼生を抱き上げる。

「玲君は、もうずっと前から……蒼生のパパだよ」
「だよね」
「パパ」

 蒼生の中では、玲が父親という認識だ。
 恐らく、玲を「ぱぱ」と呼んだあの日から。
 まだ記憶にも残らないほど幼かったとしても、気がつけばそばにいて、それが当たり前になるくらいの日々を積み重ねてきた事実があるからこそ。玲は蒼生の父親になる前から、父親だった。

「あ、そうだ」
 玲は思い出したように言った。