初恋、のちパパになる―憧れのあなたは母になっていた―


 しばらくして。
 玲は遙花の隣で、まだ少し赤い顔をしていた。
 部屋には、二人の呼吸と、遠くで鳴る夜の音だけが残っている。さっきまでの緊張がほどけたあとも、肩と肩が触れる距離は変わらず、離れる理由などどこにもなかった。

「……ごめん」
「何が?」
「緊張しすぎた」
「ふふ」
「笑わないでよ」
「だって」
 遙花が玲の顔を覗き込む。

「玲君」
「何?」
「本当に初めてだったんだね」
「だからそう言ったでしょ」
「うん。でも意外」
「何が」
「もっと余裕あるのかと思ってた」
「全然ないよ」
「でも、すごく優しかった」
 玲が少し黙る。

「……それならよかった」
「うん」
「一応……」
「何?」
「イメトレしてたし」
「…………」
 遙花が瞬きをする。


「今、何て?」
「え?」
「イメトレ?」
「あ」
「もしかして、この日のために?」
「いや、その……」

「真面目」
「笑うな」
「あっははは!」
「笑うなって!」
「だって、玲君らしすぎる!」
「恥ずかしいからもう忘れて」
「無理」
「最悪……」
 玲が枕に顔を埋める。

 その横顔を見ながら、遙花がふっと笑った。
「玲君」
「何」
「ありがとう」
「……何が?」
 遙花が玲の頬にそっと口づける。
「私を大切にしてくれて」
「……」
 玲の顔が、また赤くなる。

「頼むから……」
「何?」
「これ以上煽らないで」
「煽ってないよ」
「じゃあ何」
「好きって言ってるだけ」
 玲はしばらく黙った。

 それから、遙花の手を握る。
「……それなら、もう少しだけ」
「何?」
「そばにいて」
「最初からそのつもり」
「……そっか」
 玲は安心したように笑った。
 遙花が玲の胸元に寄り添う。

 その夜。
 二人は何度も話し。
 何度も笑い。
 時々キスをして。

 窓の外の音が少しずつ遠のき、部屋の明かりが二人の影を静かに包む中、いつの間にか、互いの体温を感じながら眠りについた。


 *