初恋、のちパパになる―憧れのあなたは母になっていた―


「いや、それは……!」
「冗談よ」
「何だぁ……びっくりした」
「入りたい?」
「いや、ダメ。それは」
「私は構わないけど」
「僕がダメ。多分死ぬ」
「大袈裟」
「いや、大問題」
「何で?」
「いいから、先入ってきて!」
「はいはい」
 遙花は楽しそうに浴室へ向かう。

「覗かないでね」
「覗かないよ!」
「ほんとに?」
「さっき一緒に入るとか言ってた人に言われたくない」
「じゃあ今から入る?」
「あとで入る!」
「分かった」

 浴室からシャワーの音が聞こえる。
 水が床を打つ音、湯気の向こうで動く気配。薄い壁一枚を隔てているだけなのに、遙花との距離が急に近くなったように感じられた。部屋には石鹸の淡い香りが漂い、玲はそれだけで落ち着かなくなる。

「……まずいな」
 ただの水音なのに、なぜか意識してしまう。
 玲はソファに座り込み、頭を抱えた。
「今からこれじゃダメだろ……」

 そうこうしているうちに、遙花が浴室から出てきた。
「玲君」
「ん?」
 振り向いた玲は、思わず視線を逸らした。
「ごめん。着替え一つ忘れた」
「ちょ、あんまり無防備にうろつかないでよ」
「はいはーい」
 からかうような声。
 玲はますます困る。
 姉の瑠花ですら、家の中をそんな格好で歩き回ることはなかった。
 こういう状況への免疫が、圧倒的に足りない。

「お風呂ありがとう」
「あ、うん。じゃあ今度は僕入ってくる」
 逃げるように浴室へ向かった。
 シャワーを浴びながら、嫌でもこのあとのことを考えてしまう。
「……ダメだ」
 深呼吸。
「落ち着け、僕」