夕凪町から帰ってきて、一ヶ月が経った。
まだ一ヶ月なのか。
もう一ヶ月なのか。
自分でもよく分からない、不思議な感覚だった。
東京に戻ってからは、いつもの生活に戻った。
朝起きて、仕事へ行って。
帰ってきて、食事をして。
休日には買い物をしたり、家で本を読んだりする。
夕凪町へ行く前と、何も変わっていない。
それでも、ときどき思う。
あの七日間が、ずっと前のことのようにも。
つい昨日のことのようにも感じられる。
九月に入って、少しずつ秋の気配が近づいていた。
それでも、昼間はまだ夏の名残が残っている。
窓を開けると、少しぬるい風が部屋に入ってきた。
暑い。
けれど、不思議と嫌ではなかった。
一ヶ月前なら、同じ暑さにうんざりしていたかもしれない。
そう思うと、少しだけ可笑しくなる。
変わったのは、季節の方ではないのかもしれない。
そのとき、机の上に置いていたスマホが震えた。
画面を見る。
朔からだった。
『誕生日おめでとう』
「あ……」
今日は自分の誕生日だった。
すっかり忘れていたことに気づいて、思わず笑ってしまう。
『ありがとう』
短く返信する。
すぐに、もう一度通知が鳴った。
今度は、写真が一枚送られてきた。
画面を開く。
淡いピンク色に染まった空。
その向こうに、静かな海が広がっている。
一瞬、息が止まった。
夢の中で見た景色と、同じ色だった。
『誕生日プレゼント』
その文字を見て、思わず笑う。
「なにそれ」
小さく呟いて、もう一度写真を見る。
あの夕日を、実際にこの目で見ることはできなかった。
少しだけ残念だった。
けれど、写真を眺めているうちに、ふとあの言葉を思い出した。
――やっぱり、本物の方が綺麗だな。
私は少し笑って、返信を打つ。
『ありがとう。でも、やっぱり実物の方が綺麗なんじゃない?』
送信する。
しばらく待ってみたけれど、返事は来なかった。
私はスマホを机の上に置く。
それから、引き出しを開けた。
中から、一冊のノートを取り出す。
夕凪町から帰ってきてから、私はまた日記を書くようになった。
毎日書くわけじゃない。
何か残しておきたいと思った日にだけ、短く書く。
今日もページを開く。
少し考えてから、ペンを走らせた。
『九月二十一日
ピンク色の夕日を見た。
本物は、もっと綺麗だったと思う。』
そこまで書いて、少しだけ笑う。
たった二行なのに、なんとなく残しておきたかった。
私はしばらくその文字を眺めてから、ノートを閉じた。
窓の外では、まだ夏の名残を残した風が吹いている。
暑さは残っている。
それでも、夏は少しずつ遠ざかっているような気がした。
私は窓を閉める。
明日の仕事の予定を確認して、スマホを机の上に置く。
部屋の中が、少し静かになった。
窓の向こうでは、東京の夜がいつものように続いている。
明日も、いつもの朝が来る。
そう思いながら、私は窓の外を眺めた。
遠くを走る車の音。
どこかの部屋から聞こえる生活の気配。
いつもの東京の夜だった。
それなのに、ふと――
波の音が聞こえた気がした。
まだ一ヶ月なのか。
もう一ヶ月なのか。
自分でもよく分からない、不思議な感覚だった。
東京に戻ってからは、いつもの生活に戻った。
朝起きて、仕事へ行って。
帰ってきて、食事をして。
休日には買い物をしたり、家で本を読んだりする。
夕凪町へ行く前と、何も変わっていない。
それでも、ときどき思う。
あの七日間が、ずっと前のことのようにも。
つい昨日のことのようにも感じられる。
九月に入って、少しずつ秋の気配が近づいていた。
それでも、昼間はまだ夏の名残が残っている。
窓を開けると、少しぬるい風が部屋に入ってきた。
暑い。
けれど、不思議と嫌ではなかった。
一ヶ月前なら、同じ暑さにうんざりしていたかもしれない。
そう思うと、少しだけ可笑しくなる。
変わったのは、季節の方ではないのかもしれない。
そのとき、机の上に置いていたスマホが震えた。
画面を見る。
朔からだった。
『誕生日おめでとう』
「あ……」
今日は自分の誕生日だった。
すっかり忘れていたことに気づいて、思わず笑ってしまう。
『ありがとう』
短く返信する。
すぐに、もう一度通知が鳴った。
今度は、写真が一枚送られてきた。
画面を開く。
淡いピンク色に染まった空。
その向こうに、静かな海が広がっている。
一瞬、息が止まった。
夢の中で見た景色と、同じ色だった。
『誕生日プレゼント』
その文字を見て、思わず笑う。
「なにそれ」
小さく呟いて、もう一度写真を見る。
あの夕日を、実際にこの目で見ることはできなかった。
少しだけ残念だった。
けれど、写真を眺めているうちに、ふとあの言葉を思い出した。
――やっぱり、本物の方が綺麗だな。
私は少し笑って、返信を打つ。
『ありがとう。でも、やっぱり実物の方が綺麗なんじゃない?』
送信する。
しばらく待ってみたけれど、返事は来なかった。
私はスマホを机の上に置く。
それから、引き出しを開けた。
中から、一冊のノートを取り出す。
夕凪町から帰ってきてから、私はまた日記を書くようになった。
毎日書くわけじゃない。
何か残しておきたいと思った日にだけ、短く書く。
今日もページを開く。
少し考えてから、ペンを走らせた。
『九月二十一日
ピンク色の夕日を見た。
本物は、もっと綺麗だったと思う。』
そこまで書いて、少しだけ笑う。
たった二行なのに、なんとなく残しておきたかった。
私はしばらくその文字を眺めてから、ノートを閉じた。
窓の外では、まだ夏の名残を残した風が吹いている。
暑さは残っている。
それでも、夏は少しずつ遠ざかっているような気がした。
私は窓を閉める。
明日の仕事の予定を確認して、スマホを机の上に置く。
部屋の中が、少し静かになった。
窓の向こうでは、東京の夜がいつものように続いている。
明日も、いつもの朝が来る。
そう思いながら、私は窓の外を眺めた。
遠くを走る車の音。
どこかの部屋から聞こえる生活の気配。
いつもの東京の夜だった。
それなのに、ふと――
波の音が聞こえた気がした。



