残念で残念で残念な天才検事と恋する事務官

「おやすみ」も言わない検事のことなので、起床時も当然、無言でリビングへやってきた。

 スーツ姿の検事しか見たことがないオレにとって、上下スウェット姿の彼は、新鮮だった。スウェットだろうが、起き抜けだろうが、イケメンぶりは健在だ。

 オレと同じで朝が弱いのか、顔色はやや悪い。

「おはようございます」

 快活に挨拶をする。オレは一時間ほど前に起床していた。

「簡単なものですけど、朝ごはん、作っておきました。すみません、台所、勝手に借りましたけど。それから、ワイシャツにアイロンかけておきましたよ」

 すぐコーヒー淹れますね、と戸棚から発掘したインスタントコーヒーの蓋を開けると、まだ封が切られていなかった。

「これ、封切っちゃっていいですか?」と尋ねると、まだ半覚醒状態の検事がコクリと頷く。冷蔵庫の中身やキッチンの様子から予測はついていたが、コーヒーの封さえ切られていないところを見ると、この人、全然自炊しないんだな。

 スティックシュガー四本、ミルク三個の検事専用コーヒー、それから自分用のコーヒーをテーブルに置く。これで全て、朝食の準備が整った。

 コーヒーの他に、トーストと焼いたベーコン、スクランブルエッグが二人分、整然と並んでいる。本当はスープも作るつもりだったのだが、時間が足りなかった。冷蔵庫がほとんど空の状態で、最寄りのコンビニまで走る羽目になったのだ。

 検事は黙然と口を閉ざしたまま、険しい表情で、テーブルの上の光景をじっと眺めている。

「あ、嫌いなメニューでしたか?」しまった、と眉を下げる。「和食のほうが良かったですか」
「いや、」

 と呟いたかと思うと、検事は珍奇な発言をした。

「君は、料理がうまいな」
「世界が終わるのって、今日でしたっけ」ノストラダムスの大予言の話を思い出す。
「何の話だ?」
「け、検事が、人を褒めるなんて、」おそろしさに、唇がわなないた。「せ、世界が終わるとしか」

『ノストラダムスの大予言』より、『検事の褒め言葉』のほうが、ずっと現実味に欠けていた。

 彼はベスを自分の膝に載せ、

「君も、なかなか失礼なやつだな」

 なあベス、と飼い犬に賛同を求めている。

「世界の誰に言われようと、検事にだけは言われたくありません」

 キャン、とここでベスが一つ鳴いた。オレの意見に、そうだそうだ、と同調してくれたのに違いない。

【続】