夢の続きは、旋律の彼方に

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 今回はもう少し時を遡り、ローズフェス後、梨歩が歌手デビューを果たした直後のお話です。
 エディから「デビュー祝い」と渡された、一枚の音源。
 楽曲提供かと思って喜ぶ梨歩に、エディは「歌えるものなら、ね」と挑発します。
 からかわれたと思った梨歩は、負けじと歌ってみせると奮い立ち、音源を再生。

 爽やかなポップ調の、キラキラした旋律。
 最初こそわくわくしながら聴いていた梨歩ですが、曲が進むにつれて、そこに涼平の存在を感じ始めます。

 そして、涙腺崩壊。

 エディが試したかったのは、梨歩の歌手としての技量ではありません。
 この曲を、感情的にならずに歌いきれるのか。

 ――というより、それ以前に。
 恋人を亡くしてまだ間もない梨歩の心情を察し、無理に忘れさせようとも、前へ進ませようともせず、ただもう一度、曲の中で涼平を感じられるように。

 梨歩から聞いた話をもとに、涼平なら何を思い、何を伝えたかったのか。
 その視点を想像しながら、一曲の中に形にしたのが『君という夢を描いて』です。
 卑怯なエディの、結局は優しい、エディなりの梨歩へのエール。

 今はまだ、無理に前へ進もうとしなくていい。
 忘れようとしなくてもいい。
 気が済むまで、涼平を感じていればいい。
 そんなことを真正面から言うのではなく、一曲の中に全部詰め込んで渡してしまう。

 言葉だけなら、いくらでも何とでも言える。
 でも、それが旋律に乗った瞬間。
 言葉の意味は少しずつ深く、鮮烈に心へ焼き付き、なかなか離れてくれなくなる。
 そして、ときには言葉だけよりもずっと深く、心の奥まで沁み渡る。

 言葉の届け方に少しくせがあるというか。
 絶妙なところへ、絶妙な角度で切り込んでいく。
 相手との距離を見極めながら、踏み込むべきところには容赦なく踏み込む。
 けれど、相手が自分の足で立ち上がるための余白だけは、決して奪わない。
 必要なものをそっと手渡し、あとはその人自身が受け取るのを待つ。
 だからこそ、その優しさは押しつけがましくなく、あとから静かに胸へ残るのです。

 これが、エディのやり方です。

【新作のお知らせ】

①『君という夢を描いて The after story―Embrace it all―』を公開しました。
 これまで『Embrace it all』シリーズとして展開していた物語を、『君という夢を描いて』の続編として加筆・修正し、改稿した作品です。
 今回の改稿では、新たなエピソードも追加しました。
追加エピソードによって、これまでとは少し違った亞紗斗の一面も垣間見える内容になっています。
 そして今回は、少々コミカルな場面も加わりました。
 物語の大きな流れはそのままに、より深くなった人物像や、新しく加わった場面など、既存作品との違いも楽しんでいただければ幸いです。
〈加筆エピソード〉
 6話「幸せの足音」―愛し子―
 7話「日本とアメリカ、稀に大阪」―知られたくなかった秘密―



②『初恋、のちパパになる―憧れのあなたは母になっていた―』を公開しました。
 恋を知らずに生きてきた新米弁護士・神城玲が、再会したのは、かつて憧れていた年上の女性――そして、彼女の腕に抱かれていた小さな赤ちゃんでした。
 これは、玲にとって最初で最後の恋の物語です。
 戸惑いながら恋を知り、大切な人とその子どもを守りたいと願い、少しずつ絆を育みながら、やがて本当の「家族」になっていくまでを描いています。
『リーガルウェポン』から広がった、神城玲の恋愛編。
 恋に不器用な玲が、愛する人と子どもとともに歩んでいく姿を、ぜひ温かく見守っていただけたら嬉しいです。