100万円は無駄じゃなかった

飛月くんとの幸せな日々が3ヶ月続いた。

ライブがある日はほとんど会いに行き、その度に飛月くんとツーショットを撮った。学校は留年にならない程度にサボった。

3ヶ月も経つと、私も少しだけ慣れてきて、飛月くんと友達みたいな会話が出来るようになっていた。

「飛月くん、やほー!来た!」
「わー!まゆかちゃん!今日も来てくれて ありがとー!」
「うん!今日から夏休みなの!」
「あ、そうなんだね!夏休みは何する予定?」
「そりゃあ、いっぱい飛月くんに会う予定だよ!」
「えーん!嬉しすぎる!ありがとう!大好き!」
「私も飛月くんの事、大好きー!」

今日も幸せだった。最初と比べるとかなり話せるようになったけど、やっぱり緊張はする。

そして私は、将来の夢が出来た。

“飛月くんみたいなアイドルになること”

神対応で優しくて、ファン全員を幸せに出来るアイドル。

飛月くんが私にそうしてくれたように、私も将来はそうなりたいと思うようになった。

けれど、それは将来の話であり、今すぐなりたい訳ではない。今は飛月くんに全てを捧げたいから。

でも、ありさから手に入れた50万は全て使ったし、自分自身の貯金もそろそろ底をつきそうだった。

そろそろまたバイトをしなければいけないとは思うけど、コンビニとかカラオケとか飲食店とか、普通にバイトして稼げる金額なんて たかが知れている。

ありさみたいにパパ活でもして楽してガッポリ稼ごうかなって、悪い考えが浮かんでしまった。

・

その日の夜。

私はパパ活のルールなどをネットで調べていた。完全に悪い方向に行こうとしている。でも、もう止められない。飛月くんのためだから…。

SNSを開き、『パパ活』とエゴサーチしようとした。

しかし、エゴサーチする前に、たまたま見てしまった。

ゴシップアカウントの投稿。

内容は…。

【はちみつミラー 泉原飛月 彼女とのキス画像が流出!動画もあり!音声付き!】

「…え…。は…?何これ…」

飛月くんが女の子とキスしている画像と動画が投稿されていた…。

「…嘘でしょ…」

AIかなとか思ったけど、明らかに本物だし、明らかに飛月くんだし…。

その投稿は拡散されて、荒れていた。

【うわー!泉原やらかしたな】
【プロ意識なさすぎて草】
【グループ自体人気ないのに…。終わったね】
【てか、はちみつミラーって何?知らないんだけど】
【全然知名度ないアイドルで、地上だけどほぼ地下】
【いやいや地下アイドルを馬鹿にするな!地下アイドルでも人気のグループいっぱいあるかんな!?】
【てか、相手の女は誰?一般人?】
【一般人らしい。飛月の高校時代の同級生らしい】
【まあ、美男美女だし、いいんじゃね?】
【アイドルとしては失格だろ】
【飛月くん、特典会の時は神対応だったのに…。残念です】
【失望しました】
【降ります。さよなら】

「…無理…。やだ…。なんで…?飛月くん…」

涙が溢れて止まらなかった。

特典会の時の「可愛い」とか「大好きだよ」は、やっぱり営業だったんだなって、改めて思い知らされた。わかってはいたけど、やっぱり心が痛い。胸が苦しい…。

百歩譲って彼女がいるのはいいとしてさ、隠せよって話。だってあなたはアイドルなんだから。飛月くんのプロ意識のなさに失望した。

そもそも彼女とキスする時、なんで写真と動画撮ろーってなった?リスクとか考えなかったのか?ファンの顔は少しでも思い浮かばなかったのか?

彼女がいたとしても、我々オタクにバレなければ、私としてはセーフなのよ。でも、バレた。バレたからには、私はもう飛月くんの事を推せない。こんなもん見てしまって、もう推せる訳がない。

別にね、熱愛以外だったらなんでも許せるのよ。めっちゃお酒飲んでても全然大丈夫だし、タバコ吸っててもOK、タトゥー入れてもらっても全然OK、なんなら極端な話、もしも飛月くんが犯罪を犯したとしても、その犯罪が女絡みの犯罪じゃなければ私は全然許せるし、嫌いにならないし、推し続ける。

でも、熱愛だけは無理。しかも今回の場合は立派な証拠付き。私の中では完全にアウト。

もしも私が30代とかだったら、「まあ、彼女くらいいてもおかしくないよね」って言って笑って許してたかもしれない。
だけど私は17歳。17歳の私にこの現実は…さすがに受け入れられなかった。

私が飛月くんの立場だったら…。もしも私がアイドルだったら…。私は絶対にこんな事しない。彼氏も作んないし、気になる男性がいたとしても連絡先すら交換しない。ファンが嫌がるような事は絶対しないのに…。

飛月くんには心底 失望しました。

もう無理です。

・

1週間くらいはずっと無気力の状態が続いた。
元々夏休みだったから学校には行かなくていいけど、ずーっと自分の部屋のベッドから動けなくて、干からびて、虫の死骸みたいになっていた。

でも、時間が経つにつれ、少しずつだけど回復はしてきた。ご飯も食べれるようになった。

“もういいや”

そう思えてきた。

飛月くんの事はもう推せない。もう会わない。降りる。
でも、飛月くんの事は絶対に忘れないし、感謝してる。
だって飛月くんは、私の人生で、唯一私にたくさん幸せをくれた人だから。たとえそれが営業だったとしても。

17歳の誕生日に飛月くんに出会って、約3ヶ月しか推せなかった。
でも、その3ヶ月の間に、馬鹿みたいにたくさん会いに行った。
約3ヶ月で泉原飛月に貢いだ金額は…。ちゃんと計算して総合計すると…。
…多分、100万は貢いだんじゃないかな…?
ありさから手に入れた50万と、元々あった自分の貯金と、バイト代と…。ほとんど全部使って、きっと100万は使ったと思う。3ヶ月で。
今思い返せば正気の沙汰ではない。17歳が3ヶ月で推しに100万って…。

だけど、飛月くんに100万使った事、全く後悔してない。だって、熱愛が出るまでは幸せだったから。100万で幸せを買った。たとえ営業だったとしても、あの幸せには100万の価値があったと私は思っている。

だから、推し活にお金を使う事は浪費じゃないと、私は思う。

決してお金の無駄なんかじゃなかった。そう思いたい。

…にしても、よく考えたら、熱愛出て逆に良かったのでは?と思えてきた。
だって、あのまま飛月くんの熱愛が出ずに推し続けてたら、私はパパ活を始めていた。完全に道を踏み外していた。
だから、これで良かったのかもしれない。ちょうどいいタイミングで熱愛が出たよね。

でも、本当に後悔してないし、感謝してるよ。

ありがとう、飛月くん。

約3ヶ月。短かったけどとても濃い3ヶ月でした。

飛月くんの事、誰よりも世界で1番大好きでした。

だから、世界で1番幸せになってね。

…バイバイ…。