100万円は無駄じゃなかった

それから私は、はちみつミラーのファンクラブに入り、公式グッズもたくさん買った。

泉原飛月の個人うちわ10枚、泉原飛月のアクスタ10個、はちみつミラーのトートバッグ、タオル、ペンライトなどなど…。
公式写真も、飛月くんのソロのは10枚ずつ買って、他のメンバーと写っている写真や6人全員の集合写真は5枚ずつ買った。

私の貯金はかなり減ってしまった。
高1の4月からずっとバイトをしていて、元々は趣味とかもなく、お金はほぼ使っていなかった。メイク用品とか服を少し買うくらい。だから、貯金はそこそこあったはずなのに…。

・

私は学校を辞めようと思った。飛月くんのために。
学校に行っている時間が無駄だと思ったから。学校に行くくらいなら、たくさんバイトをして飛月くんに会うためのお金を稼ぎたいと思った。

両親に「学校を辞めたい」と伝えた。飛月くんの事は話さずに。
両親は「はあ?」と、呆れ果てていた。かなり口論になった。

「パパもママも、どうせ私には期待してないでしょ!?私より ありさの方が可愛いんでしょ!?私の事なんてどうでもいいじゃん!好きにさせてよ!」
「駄目に決まってるでしょ!」
「なんで?別にいいじゃん!こんな家、出てくから。1人で適当にアパート借りるし!」
「17歳で一人暮らし?何を馬鹿な事を言ってるんだ!?」
「絶対に許さないから!」

未成年が一人暮らしをするとなると、親の同意がいるらしい。それを「許さない」と言われた…。

「…いやいや。そもそも私、元々は高校卒業したら出てくつもりだったんだけど?」
「それは好きにして?でも、17歳で一人暮らしは絶対に駄目。高校も卒業しなさい」

ママは冷徹にそう言った。

「…だって…。お金が足りないんだもん…。いっぱいバイトしたいんだもん…」
「…いい?まゆか。私達は、あなたの将来のために言ってるの。大学に行けとは言ってない。勉強しろとも言ってない。せめて高校だけは卒業しなさいと言ってるの。高卒か中卒かで、だいぶ違うから」
「まゆか…。高校卒業したら、好きなようにすればいいからさ…」

…高校卒業したら…?
その時、飛月くんはどうなっているか わからない。飛月くんがその時もちゃんとアイドルを続けてくれているか、わかんないじゃん…。
今しかないんだよ…。何があるか わからないから、今のうちにたくさん会いに行かないと駄目なんだよ…。

「…やだ!私、高校辞める!」

すると両親は、鬼の形相になった。

「駄目なもんは駄目だ!」
「なんでこんな子になっちゃったのかしら?ほんと ありさとは大違いだわ!」
「まゆかが何を言っても絶対退学させないからな!」
「親の許可がないと退学出来ないからね?絶対卒業しなさい!」

…この前、私が学校サボった時は何も言ってこなかったけど、退学となると話は別か…。
たまにサボるのはいいけど退学だけは許さない。それが両親の考えらしい。

結局、私が何を言っても退学を許してくれなかった。

17歳で未成年だから、一人暮らしも退学も親の同意が必要。親が同意してくれなかったら出来ない。それが凄く悔しかった…。

・

数日後。

また飛月くんに会いに行った。

今日は土曜日だから、学校は休み。そして、ライブは昼の部と夜の部がある。もちろん両部チケットを取った。
この前よりもメイクに気合いを入れて、服も黄色のフリフリの服を着て行った。

貯金はかなり減ったものの、まだ少し余裕はある。だからまたたくさんCDを買い、ツーショット券をたくさん手に入れた。

今は昼の部。1時間ほどライブを見た。この前来た時よりも少し前の列で見れた。黄色のペンライトを、この前よりも元気に振った。

そして、ライブが終わり、特典会。

私の番が来ると、私はスタッフさんにツーショット券をとりあえず10枚渡した。でも、まだまだツーショット券は持っている。

「あっ!まゆかちゃん!やっほー!」

飛月くんはキラキラの笑顔で手を振ってくれた。しかも、私の名前まで本当に覚えてくれていた。天才アイドルじゃん…。

パイプ椅子に座り、いろんなポーズでツーショットを撮った。

「まゆかちゃん、ライブ中もちゃんと黄色のペンライト振ってくれてたね。ちゃんと見えてたからね?」

…ちゃんと見えてたんだ…。

「てか、お洋服も黄色で来てくれたんだね?俺のメンカラ!」
「う、うん…」
「めちゃくちゃ可愛い!まゆかちゃんは黄色が1番似合うよー!」

飛月くんは私の全てを肯定してくれて、私の欲しい言葉をくれた。家族とは大違いだ。

「ありがとう!また来てねー!」

10枚撮り終え、飛月くんとバイバイした。寂しいけど、夜の部も行くから…。

・

「わー!まゆかちゃん!夜も来てくれてありがとー!超嬉しー!」

夜の部の特典会でも、飛月くんとツーショットを撮った。
私は相変わらず緊張して全然喋れなかったけど、飛月くんがたくさん喋ってくれた。

「昼も夜もまゆかちゃんに会えて幸せ!」
「…え…。あ…。うん…」
「やっぱりまだ緊張してる?」
「う、うん…」
「あは。可愛いー!それくらい俺の事が好きって事でしょ?嬉しい!俺もまゆかちゃんの事大好きだよー!」

“大好き”

その言葉を言われた瞬間、泣きそうになった。『可愛い』も『大好き』も、言ってくれたのは飛月くんが初めてなんだよ…。

「ありがとう!また来てねー!」

泣きそうになりながら飛月くんに手を振り、スタッフさんからスマホを受け取った。

会場の外に出た。全身が熱くて、このまま天に召されてしまいそう…。

“大好きだよー!”

飛月くんのあの声が、あの顔が、頭の中に焼き付いている…。

きっと私以外のオタクにも言ってるだろうし、営業だってわかってる。それでも私は嬉しくて、今まで生きてきた中で1番幸せだった。

飛月くんに私の全財産を全て捧げたいと本気で思った。

でも、現実的に考えて、学校は退学 出来ないからバイトする時間は限られてて稼げる金額も限られている…。

それでも私は飛月くんにたくさん会いたいし、たくさん貢ぎたい。

私は飛月くんの沼にズブズブと溺れていて、もう手遅れだった。