翌朝。
朝倉悠真は、いつもより早く学校に着いた。
昨夜のことが頭から離れなかった。
旧校舎の奥にあった、あの扉。
そして――扉の向こうから聞こえた声。
『開けて』
夢だったのかもしれない。
そう思いたかった。
「おはよう、悠真」
教室に入ると、蓮が自分の席に座っていた。
「おはよう」
「昨日のことだけどさ」
蓮は周囲を気にしながら声を落とした。
「あの扉、本当に誰かいたと思う?」
「分からない」
「じゃあ、今日もう一回見に行く?」
「……やめとこう」
悠真がそう答えると、蓮は少し驚いた顔をした。
「珍しいな。お前、こういうの好きだろ」
「昨日の声、普通じゃなかった」
「まあ……それはそうだけど」
そのとき、教室の前の扉が開いた。
「席についてー。ホームルーム始めるぞ」
担任の先生が入ってきた。
生徒たちが席に戻っていく。
悠真も前を向いた。
だが、何かがおかしい。
いつもなら、窓際の後ろから二番目の席に――
「……あれ?」
悠真は小さく声を漏らした。
そこには誰も座っていなかった。
昨日まで、そこにいたはずの人物。
佐伯蓮の席だった。
「先生」
悠真は手を挙げた。
「佐伯は?」
教室が静かになった。
担任は不思議そうに悠真を見る。
「佐伯?」
「はい。蓮です」
「……誰のことだ?」
悠真の背中が冷たくなった。
「いや、佐伯蓮ですよ。同じクラスの……」
担任は名簿を確認した。
「そんな生徒、このクラスにはいないぞ」
ざわざわと教室が騒がしくなる。
悠真は周囲を見渡した。
「昨日、一緒にいたよな?」
近くの男子に聞く。
「昨日って?」
「昨日、蓮と話してただろ」
「……誰?」
女子にも聞いた。
「佐伯蓮って知らない?」
「知らないけど……」
誰も知らない。
まるで、最初から存在していなかったかのように。
「嘘だろ……」
悠真は自分のスマートフォンを取り出した。
連絡先を開く。
そこには確かに、
佐伯蓮
という名前が登録されていた。
写真もある。
二人で撮った写真。
昨日の放課後、旧校舎の前で撮ったものだ。
「ほら!」
悠真は写真をクラスメイトに見せた。
しかし――
「……これ、お前一人じゃん」
「え?」
画面を見る。
写真には、悠真しか写っていなかった。
隣にいたはずの蓮が、消えている。
「そんな……」
悠真は何度も画面を確認した。
確かに昨日は二人で写っていた。
なのに。
今は一人。
その瞬間、スマートフォンが震えた。
新しいメッセージが届いている。
送り主は――
佐伯蓮
「……!」
悠真は震える指でメッセージを開いた。
そこには、一行だけ書かれていた。
『昨日の扉、開けて』
悠真は立ち上がった。
「……蓮」
教室の誰も、その名前に反応しない。
担任は何事もなかったようにホームルームを続けている。
まるで、世界から一人の人間だけが切り取られてしまったようだった。
放課後。
悠真は一人で旧校舎へ向かった。
行ってはいけない。
頭では分かっている。
でも、蓮を取り戻す方法があるとしたら――
あの扉しかない。
昨日と同じ廊下。
昨日と同じ場所。
そして、昨日と同じ扉。
ただ一つだけ違っていた。
扉に貼られていた紙が、なくなっている。
代わりに、木製の扉そのものに文字が刻まれていた。
昨日はなかった文字。
悠真は近づいて、それを読んだ。
――一人目は、もう帰れない。
その下には、さらに新しい文字が刻まれていた。
――次は、あなた。
悠真は息を止めた。
そして、その瞬間。
扉の向こうから声がした。
「……悠真」
間違いない。
蓮の声だった。
「助けて」
悠真はドアノブに手を伸ばした。
しかし――
触れる直前。
扉の向こうから、もう一人の声が聞こえた。
「開けちゃダメ」
悠真の手が止まった。
その声は――
自分自身の声だった。
朝倉悠真は、いつもより早く学校に着いた。
昨夜のことが頭から離れなかった。
旧校舎の奥にあった、あの扉。
そして――扉の向こうから聞こえた声。
『開けて』
夢だったのかもしれない。
そう思いたかった。
「おはよう、悠真」
教室に入ると、蓮が自分の席に座っていた。
「おはよう」
「昨日のことだけどさ」
蓮は周囲を気にしながら声を落とした。
「あの扉、本当に誰かいたと思う?」
「分からない」
「じゃあ、今日もう一回見に行く?」
「……やめとこう」
悠真がそう答えると、蓮は少し驚いた顔をした。
「珍しいな。お前、こういうの好きだろ」
「昨日の声、普通じゃなかった」
「まあ……それはそうだけど」
そのとき、教室の前の扉が開いた。
「席についてー。ホームルーム始めるぞ」
担任の先生が入ってきた。
生徒たちが席に戻っていく。
悠真も前を向いた。
だが、何かがおかしい。
いつもなら、窓際の後ろから二番目の席に――
「……あれ?」
悠真は小さく声を漏らした。
そこには誰も座っていなかった。
昨日まで、そこにいたはずの人物。
佐伯蓮の席だった。
「先生」
悠真は手を挙げた。
「佐伯は?」
教室が静かになった。
担任は不思議そうに悠真を見る。
「佐伯?」
「はい。蓮です」
「……誰のことだ?」
悠真の背中が冷たくなった。
「いや、佐伯蓮ですよ。同じクラスの……」
担任は名簿を確認した。
「そんな生徒、このクラスにはいないぞ」
ざわざわと教室が騒がしくなる。
悠真は周囲を見渡した。
「昨日、一緒にいたよな?」
近くの男子に聞く。
「昨日って?」
「昨日、蓮と話してただろ」
「……誰?」
女子にも聞いた。
「佐伯蓮って知らない?」
「知らないけど……」
誰も知らない。
まるで、最初から存在していなかったかのように。
「嘘だろ……」
悠真は自分のスマートフォンを取り出した。
連絡先を開く。
そこには確かに、
佐伯蓮
という名前が登録されていた。
写真もある。
二人で撮った写真。
昨日の放課後、旧校舎の前で撮ったものだ。
「ほら!」
悠真は写真をクラスメイトに見せた。
しかし――
「……これ、お前一人じゃん」
「え?」
画面を見る。
写真には、悠真しか写っていなかった。
隣にいたはずの蓮が、消えている。
「そんな……」
悠真は何度も画面を確認した。
確かに昨日は二人で写っていた。
なのに。
今は一人。
その瞬間、スマートフォンが震えた。
新しいメッセージが届いている。
送り主は――
佐伯蓮
「……!」
悠真は震える指でメッセージを開いた。
そこには、一行だけ書かれていた。
『昨日の扉、開けて』
悠真は立ち上がった。
「……蓮」
教室の誰も、その名前に反応しない。
担任は何事もなかったようにホームルームを続けている。
まるで、世界から一人の人間だけが切り取られてしまったようだった。
放課後。
悠真は一人で旧校舎へ向かった。
行ってはいけない。
頭では分かっている。
でも、蓮を取り戻す方法があるとしたら――
あの扉しかない。
昨日と同じ廊下。
昨日と同じ場所。
そして、昨日と同じ扉。
ただ一つだけ違っていた。
扉に貼られていた紙が、なくなっている。
代わりに、木製の扉そのものに文字が刻まれていた。
昨日はなかった文字。
悠真は近づいて、それを読んだ。
――一人目は、もう帰れない。
その下には、さらに新しい文字が刻まれていた。
――次は、あなた。
悠真は息を止めた。
そして、その瞬間。
扉の向こうから声がした。
「……悠真」
間違いない。
蓮の声だった。
「助けて」
悠真はドアノブに手を伸ばした。
しかし――
触れる直前。
扉の向こうから、もう一人の声が聞こえた。
「開けちゃダメ」
悠真の手が止まった。
その声は――
自分自身の声だった。
