開けてはいけない最後の扉

 その扉を見つけたのは、午後五時四十二分だった。

 朝倉悠真は、古びた校舎の廊下を歩いていた。

「なあ、本当にこっちで合ってるのか?」

 後ろから声をかけてきたのは、同級生の佐伯蓮だった。

「たぶん。旧校舎の資料室、こっちのはず」

「たぶんって……お前、案内役だろ」

「仕方ないだろ。来たことないんだから」

 二人がいるのは、普段は立ち入り禁止になっている旧校舎だった。

 数か月後には取り壊される予定で、今日は教師から許可をもらって、必要な備品を確認しに来ている。

 しかし、悠真たちは途中から完全に目的を忘れていた。

「……なあ」

 蓮が足を止めた。

「何?」

「ここ、さっき通ったか?」

 悠真は廊下を振り返った。

 同じような教室の扉が、左右に並んでいる。

「……いや」

 そう答えた瞬間だった。

 廊下の一番奥に、一枚の扉が見えた。

 他の教室とは違う。

 窓もない。

 表札もない。

 ただ、古い木製の扉が一枚だけ立っている。

「なんだ、あれ?」

 二人はゆっくり近づいた。

 扉には、小さな紙が貼られていた。

 そこに書かれていた文字を、悠真は読み上げる。

「……『開けてはいけない』?」

「ベタすぎるだろ」

 蓮が笑った。

「こういうのって普通、『立入禁止』とかだろ」

「まあな」

 悠真も笑った。

 そして、何気なくドアノブに手を伸ばした。

 その瞬間。

 ――コン。

 扉の向こうから、音がした。

 二人の笑い声が止まった。

「……今の、聞いた?」

「ああ」

 もう一度。

 ――コン。

 今度は、はっきり聞こえた。

 まるで、誰かが扉を内側から叩いているようだった。

 悠真は手を離した。

「……誰かいるのか?」

 返事はない。

 代わりに、扉の向こうから小さな声が聞こえた。

「……開けて」

 悠真は息をのんだ。

 蓮の顔からも、笑みが消えていた。

「悠真……帰ろう」

「ああ」

 二人は扉から離れた。

 そのとき、悠真は気づかなかった。

 扉に貼られていた紙の下に、もう一枚の紙があることに。

 そこには、こう書かれていた。

 ――一度開けたら、最後まで閉じられない。