君の声で起こして。〜学校一のモテ男を電話で起こしてたら陰キャなのに懐かれて付き合うまでの話〜

 夕飯を食べ、自室のベッドに寝転がった。母が干してくれたのか、水色の肌掛け布団からは太陽の香りがした。

 手には二年前に発行された「週刊少年アース」がある。中をぱらぱらと捲り、「第56回 少年アース新人賞 結果発表」のページを開く。

 見開きのページの右下に、「ピカリ賞」という文字とともに自分の作品が載っている。五センチ四方の枠内に、応募した作品の主人公のイラストが収まる。

 講評にはこうある。

『ストーリーや構成には光るものあり。ただ主人公のキャラクターに深みがないのが残念。格好いいだけではつまらない。何かギャップをいれるなど、工夫が必要』

 当時は、「少年漫画の主人公が格好良くて何が不満なんだよ」と、その講評に対し反抗心のようなものが芽生えた。主人公は格好良いものだろ、と。

 受賞後はスランプのようなものに陥ってしまい、長いこと、きちんとした漫画を描けていなかった。

 枕に両手で頬杖をつき、長く息をつく。

 この講評の意味が、今ならわかる気がした。

 花井は言うまでもなく「格好良い男」だ。美男子で、センスの良いものを身につけているのに嫌味がない。痩せ型ではあるが、スポーツをしていただけあって筋肉質な体つきをしている。

「リハビリを通じて負傷したスポーツマンを助けたい」と夢を語って周囲をうっとりさせたかと思えば、「男のアレが二本欲しい」などと暴言を放って、突拍子もないアクロバットを見せてくることもある。だからこそ、人は花井瑞樹という人間から目が離せなくなるのかもしれない。

 まだ知り合って、たったの数日だ。だけどこれまでに、花井ほど底知れぬ魅力を感じる人間に出会ったことがなかった。玉虫色という例えがあるが、まさに角度によって、まったく違った色合いを見せてくる。

 オレはベッドの上で体を起こし、勉強机に向かった。紙とシャーペンを掴む。間欠泉のように前触れもなく、かつ急激に、創作意欲が湧き起こった。

 花井をモデルにした主人公を据えた、サッカー漫画を描いてみよう。

「……いや、花井はさすがに手に余るな……」

 花井の要素を一人のキャラクターに詰め込んだら、それは「盛りすぎ」な気がする。うーん、とシャーペンを顎に当てて天井を仰ぐ。

 そうだ、主人公をAとBの二人にしよう。それぞれのキャラクターに、少しずつ花井の要素を入れこむのだ。

 Aは県内でも屈指のストライカー。女好きで、その私生活は目に余るところがある。でも根は律儀で仲間思いだから、どこか憎めない。

 Bは怪我で選手生命を断たれたAの幼馴染。怪我以降は裏方としてAのチームを献身的に支える。しかしピッチに立てない自分の惨めな姿と、思い切りスポーツができるのに不真面目なところがあるAとを比較して、たびたび二人は衝突してしまう――。

 アイディアというのは不思議なもので、丸一日唸っても一場面すら浮かばないこともあれば、たった数時間でストーリーの全体図を思い描けてしまうこともある。今日の自分は完全に後者だった。

 無心で右手を動かしていると、祖母の長閑な声が背後から響いてきた。

「まーくん。今でも漫画、よう描いとるの?」

 果物の載った皿を手にした祖母を振り返る。

「うん。よう描いとる」

花井瑞樹は、まさに主人公の男だ。
 

【続】