その日の帰り、寄り道して公園でアイスを食べた。砂場とブランコ、それから色褪せた土管型のトンネルがあるだけの小さな公園だ。
そこで真琴に「ネーム」というものを手渡された。
漫画の設計図のようなものと説明を受けたので、顔にバツ印が描かれたようなキャラが配置されているのかと思ったが、まったく違っていた。服の皺やキャラの表情、額に流れる汗などもしっかりと描き込まれている。背景だけは白っぽい状態だった。
柱となるキャラクターが二人いる物語だった。どちらが俺なのだろう、と考えながら読んでいると、それぞれに少しずつ自分の要素が散りばめられていることに気づく。どちらも俺がモデルなのだとわかったときは、少し照れくさくて、しかしそれ以上に幸福感が込み上げた。
読み進めて、驚いた。
そこには、本当に「俺の物語」があった。
サッカーの夢のような楽しさ、それを失う苦しみ、前を向こうともがく姿――俺が実際にこの目で見て、体験して、でもうまく言語化できなかったそれら全てが、そこには克明に描かれていた。
どうしてここまでわかるんだ。俺の思いが。苦しみが。そう思った。
サッカーにまつわる詳細な話を、真琴にした記憶はない。「怪我をして、やめざるを得なかった」程度の話だけだ。もちろん真琴だけではない。怪我をしてからは、サッカーの話を積極的に人にしたことはない。
それなのにどうして――
『僕は当事者ではないから、そのときのユウコの真の苦しみは想像するしかない。だからこそ全力で想像して、調べて、耳を傾けて、共感してきたつもりなんだ。ユウコの次には、きっと彼女のつらさを理解できていると思う』
マナの言葉が脳裏によぎった。
涙がこぼれた。
想像してくれたんだな。必死に。一生懸命に。
自分なりに調べて、俺の声なき声に耳を傾けて、共感してくれた。それはもう、「優しさ」などという枠を飛び越えていると思った。
――これを愛と呼ばないのなら、なんと呼ぶのだろう。
三十一ページの漫画の中に、世界で一番美しい愛の表現を見た気がした。
「あ――ごめん! 何か、気に障った……?」
涙を流す俺に真琴がうろたえた。
「違う。ごめん。ちょっと……感動して」
心に空いた暗い空洞に、その美しい愛が満ちていくのを感じた。
俺のサッカー人生が、こんな形で続いていくのなら――自分が「キャプテン椿」でサッカーを志したように、誰かのきっかけになることがあるのなら、自分のサッカー人生にも深い意義がある。
――ありがとう、真琴。
こんな思いに気付かせてくれて、ありがとう。
なんて格好いいんだよ、真琴は。お前の隣に、胸を張って立てる男になりたいよ。
「真琴はこんなに格好いいのに、俺ときたらどうだよ。だっせえな」
そう感じて自分を卑下したのに、彼はこう言うのだ。
「花井ほど格好いい人に、出会ったことない。オレにとっての、完璧な主人公だ」
とんでもないことだ。
主人公はお前だよ、真琴。
愛おしくてたまらなかった。溺れそうに胸が苦しい。うまく息が吸えない。
真琴はこんなに途方もない、完璧な愛の表現をくれた。でも俺には、何も返せるものがなかった。大量生産型の安っぽい愛の言葉では、太刀打ちできようはずもない。
――だから、真琴に全部預ける。
魂も、息も、全部、真琴に託したい。
キスしてもいいかな。勝手でごめん。でも今、キスしないと、もう二度と、ちゃんと息を吸えない気がするんだ。
「……は、花――」
真琴の声を塞いだ。
初めて触れた真琴の唇で、彼の平熱を知った。
そこで真琴に「ネーム」というものを手渡された。
漫画の設計図のようなものと説明を受けたので、顔にバツ印が描かれたようなキャラが配置されているのかと思ったが、まったく違っていた。服の皺やキャラの表情、額に流れる汗などもしっかりと描き込まれている。背景だけは白っぽい状態だった。
柱となるキャラクターが二人いる物語だった。どちらが俺なのだろう、と考えながら読んでいると、それぞれに少しずつ自分の要素が散りばめられていることに気づく。どちらも俺がモデルなのだとわかったときは、少し照れくさくて、しかしそれ以上に幸福感が込み上げた。
読み進めて、驚いた。
そこには、本当に「俺の物語」があった。
サッカーの夢のような楽しさ、それを失う苦しみ、前を向こうともがく姿――俺が実際にこの目で見て、体験して、でもうまく言語化できなかったそれら全てが、そこには克明に描かれていた。
どうしてここまでわかるんだ。俺の思いが。苦しみが。そう思った。
サッカーにまつわる詳細な話を、真琴にした記憶はない。「怪我をして、やめざるを得なかった」程度の話だけだ。もちろん真琴だけではない。怪我をしてからは、サッカーの話を積極的に人にしたことはない。
それなのにどうして――
『僕は当事者ではないから、そのときのユウコの真の苦しみは想像するしかない。だからこそ全力で想像して、調べて、耳を傾けて、共感してきたつもりなんだ。ユウコの次には、きっと彼女のつらさを理解できていると思う』
マナの言葉が脳裏によぎった。
涙がこぼれた。
想像してくれたんだな。必死に。一生懸命に。
自分なりに調べて、俺の声なき声に耳を傾けて、共感してくれた。それはもう、「優しさ」などという枠を飛び越えていると思った。
――これを愛と呼ばないのなら、なんと呼ぶのだろう。
三十一ページの漫画の中に、世界で一番美しい愛の表現を見た気がした。
「あ――ごめん! 何か、気に障った……?」
涙を流す俺に真琴がうろたえた。
「違う。ごめん。ちょっと……感動して」
心に空いた暗い空洞に、その美しい愛が満ちていくのを感じた。
俺のサッカー人生が、こんな形で続いていくのなら――自分が「キャプテン椿」でサッカーを志したように、誰かのきっかけになることがあるのなら、自分のサッカー人生にも深い意義がある。
――ありがとう、真琴。
こんな思いに気付かせてくれて、ありがとう。
なんて格好いいんだよ、真琴は。お前の隣に、胸を張って立てる男になりたいよ。
「真琴はこんなに格好いいのに、俺ときたらどうだよ。だっせえな」
そう感じて自分を卑下したのに、彼はこう言うのだ。
「花井ほど格好いい人に、出会ったことない。オレにとっての、完璧な主人公だ」
とんでもないことだ。
主人公はお前だよ、真琴。
愛おしくてたまらなかった。溺れそうに胸が苦しい。うまく息が吸えない。
真琴はこんなに途方もない、完璧な愛の表現をくれた。でも俺には、何も返せるものがなかった。大量生産型の安っぽい愛の言葉では、太刀打ちできようはずもない。
――だから、真琴に全部預ける。
魂も、息も、全部、真琴に託したい。
キスしてもいいかな。勝手でごめん。でも今、キスしないと、もう二度と、ちゃんと息を吸えない気がするんだ。
「……は、花――」
真琴の声を塞いだ。
初めて触れた真琴の唇で、彼の平熱を知った。



