君の声で起こして。〜学校一のモテ男を電話で起こしてたら陰キャなのに懐かれて付き合うまでの話〜

 なんと奥深い人間なのだろう。

 真琴のことを知れば知るほど、その思いは日毎に強まった。

 寡黙で無骨なタイプなのかと決めつけていたが、打ち解けてくると、地頭の良さから捻りのあるツッコミを返してくるのが楽しい。

 その見た目からもっと気弱な性格なのだろうと思えば――自分の色眼鏡を反省している――凛とした背骨を体の中心に据えている男なのだと知る。

 何よりも、とにかく優しい。ただ真琴の隣で呼吸をしているだけで、自分の血液までもが少しずつ清らかになっていくような気がした。

 モーニングコールなどという面倒ごとを、なんら見返りも求めずに引き受け、「オタク」と悪意を剥き出しにしてくる相手にすら、柔らかい物腰を崩さない。どれほど深い懐の持ち主なのかと感嘆する。

 優秀で、芸術的な才能もあるのに決してそれをひけらかさない。眼鏡の奥で隠れがちな黒目の大きい両目は、濃い睫毛で縁取られていて印象的だ。猫背気味なので気付きにくいが、実は俺と一センチ程度しか身長が違わず、手足も長くスラッとしている。

 ――そしてこれは蛇足だが、真琴の名古屋弁はめちゃくちゃ可愛い。

「花井を主役のモデルにして、サッカーのこととか、怪我したこととか、そういうのも含めて描いてみたくて……いいかな?」

 そんな彼が、俺を主人公のモデルにした漫画を描きたいと申し出てきた時は、心が震えた。

 漫画制作における気苦労や過酷さは知る由もないが、それでも少なくない時間を、俺がモデルだという主人公に割くのだろう。真琴が家に帰った後も、机の前で俺のことを考察したり、思いを巡らせたりする様を想像すると、不思議なほど胸が高鳴った。

「俺のいないところでも、悠木が俺のことを考えてると思うと――、なんだろ。なんつーか、めっちゃドキドキする」

 俺の飾らない言葉に、真琴はへどもどしている。その様子も動画に収めておきたいほど愛くるしかった。

 この高揚感。この胸の高鳴り。

 はじめは、なんだろう、と素朴に疑念を覚えた。初めて出会う感情だったからだ。

 その後、教室で一日中そのことを考えて、そうか、と思い至った。

 そうか、惹かれているんだ、と。

 俺は、彼が好きなのか。誰かを好きになるって、こういうことか。

 そのことに気づいた時、何故だかとても嬉しかった。乾き切った感情の砂漠に、まだ生きたオアシスが残っていた――そんな気になったからかもしれない。数年ぶりの、最高に晴れやかな気分だった。



 週明けの月曜日、真琴がヘアスタイルを変えてきたのを見て、俺は気が動転した。焦ったのだ。新しい髪型が、あまりに似合いすぎていて。真琴が男を上げすぎていて。

「昨日、髪切って。ど、どうかな……やっぱ、変かな」

 異常に可愛すぎる――こんなの、すれ違う誰もが好きになってしまうではないか。

 後から思えば情けない話だが、俺は褒めるより先に「駄目だ」と口走っていた。せっかく自分の想いに名前をつけられたところだったのに、真琴に皆が魅了されてしまったら、それこそ一事だ。自分がこんなに恋愛に不器用なのだと知らなかった。