きみの青に飛び込む



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「ちょっと男子ー!ちゃんと手伝ってよ!!」

あと3日後に差し迫った文化祭。放課後の教室ではクラスの出し物の準備で追われていた。
テンプレ通りの女子の声が教室に響く。

「神坂、あれお前に言われてるぞ」

「俺だけじゃなくてお前らもだろ、早く手伝おうぜ」

しゃがんで真新しいはけを手に取る。水色の絵の具にそれをつけた。
ペタペタとどこに使うかもわからない板の上の白い紙に色を塗り始めた。入れ物いっぱいに溜まっている水色は白色の紙につけてみると少し色が違って見える。

羽柴の目も、こんな感じだよな。放課後のオレンジが差し込んだ瞳、黒色のコンタクトで覆われた瞳、いろんな青が見える。

「ちょっと神坂!」

「え、はい、なんすか」

先ほど教室で男子(主に俺たちに)に喝をいれていた女子がこちらに寄っていた。

「そこ、水色じゃないんだけど」

「まじ?でも、下書きに水色って書いてたけど」

「それはここまで!はみ出てんじゃん!」

俺の前にしゃがみ込んでそう言った女子。境界線をゆうに飛び越えて『ピンク色』と書かれた薄い字の場所に水色が進入している。あちゃー。

「ごめん」

素直に謝れば、女子が少し言葉を詰まらせた。
隣で作業をしていたヤツがニヤけ顔で俺の肘をつつく。

「荒牧さん、神坂のこと気になってるって言ってたよな」

「は?」

思わず顔を歪める。荒牧さん、とは、今俺の目の前にいる女子のことだ。
荒牧さんは俺の隣のやつを軽く睨みつけると「そんなんじゃないし」と蚊の鳴くような声を放って立ち上がった。

「上から白色塗って乾かしてからまた改めて色塗るから、白の絵の具、資料室から取ってきて」

「分かった、あの、荒牧さん」

「それ以上なんか言ったら、腕へし折る」

「代償でかすぎ…」

ふんっと鼻を鳴らして俺から去っていた荒牧さん。
俺は隣のバカを睨んだ。

「お前、ああいうこと言うなよ」

「なんでだよ、荒牧さんかわいいし付き合えば?」

「…付き合わないよ」

「なんで?好きな人でもできた?」

「それは…」

続きの言葉は教室の隅の悲鳴らしき声ですっ飛んだ。
声の中心に目をやる。
1人は床にすっ転んでおり、バケツが床に転がっている。

少し汚れた水たまりが床にできていた。
そしてそのバケツの水を被ったであろう人物。

「…羽柴」

「うわー、ありゃそう着替えだな」

違う、そういうことじゃない。

「羽柴くん大丈夫!?」

「う、うん、大丈夫、でもちょっと目に、なんか入った、かも」

羽柴はそんなことを言いながら眼鏡を外した。
ダメだ、なにやってんのあいつ。
周りが心配するように羽柴の顔を覗き込んだ。
羽柴は「いたい」と言って、目を擦ろうとする。
そんなことしたら、コンタクトが外れるだろうが。

羽柴の、秘密が。

「どした神坂?」

「…ふざけんなよ」

反射的に羽柴の方に走り出した。
そして、目を擦ろうとしていた手を掴む。

「え、神坂、く」

「行くぞ」

羽柴の手を引いて教室を出た。