きみの青に飛び込む



羽柴は眼鏡をつけるのを諦めてまたお弁当を食べ始めた。
その横顔をじっと見つめる俺の視線に飽き飽きしたのかため息をもらした羽柴。

「…元カノの下着の色」

「え?なに、下着?」

「元カノの下着の色、青だったの?」

何の話だ。訳がわからず顔を顰めると羽柴はそれ以上何も言わずにもぐもぐとおかずを食べている。
元カノ、下着、青色。

ーーー「あれじゃね?元カノの下着が青色で嫌な思い出あるんじゃね」

ーーー「それか青色の下着の呪いに取り憑かれてんじゃね?」
はっ、朝の、下品な会話。

「聞こえてたのか」

「……」

「いやいやいや、あんなのあいつらの妄想だし」

「でも否定してなかった」

「するほどの会話でもなかったんだよ」

「でも、元カノはいるってことだ」

それは、まあ。と、反応できずに羽柴の方を見つめる。俺とは目を合わさないままだがどこか棘を帯びている。

「よく、女の子の好みの話とかしてるもんな、教室で」

「あれは、あいつらが好き勝手言ってんだよ」

「時々、神坂くんも話にのってる時あるよ」

「それは雰囲気が冷めないようにって話で。てか、羽柴俺たちの話きいてんの」

羽柴の動きがぴたりと止まった。そして小さく喉を鳴らす。

「…僕、地獄耳だから」

「地獄耳?」

「耳がいいんだ、聞きたくないことも耳に入ってくる」

目の次は耳か。なんて、意図せず羽柴の情報が自分の中にインプットされていく。
どこか、嬉しかった。
教室がうるさくてここにくるのもそういうことか納得していると、羽柴はまだご立腹らしい。

「…だいたい、神坂くんは人の言葉を否定しないから人をつけあがらせるんだよ」

「なんだよ急に」

と、怒っている羽柴がかわいくて軽く笑いながら返せば羽柴が箸を荒々しく置いて俺に詰め寄った。

「なんでも適当に笑って受け流して、寄ってきた人を拒絶なんてしない、僕も君に群がるやつらの1人くらいにしか思ってないんだろ」

それはない。俺はそもそも自分から誰かをつけてまわるような人間じゃない。
こんな、独占欲が湧いたことがない。
羽柴の秘密を誰にも知られたくなくて、自分だけのものしたいって、その気持ちは確実に当たり前じゃないだろ。

「…羽柴は俺に群がってはないだろ、むしろ逆で俺が羽柴に付き纏ってるって感じだし」

「どうせ、僕の秘密に慣れたらどうでもよくなるよ」

ふいっと顔を晒された。秘密に慣れる?慣れるのか?これ。なんなら前より増幅してるんだけど。
秘密を誰にも知られたくない、俺だけのものにして、そんで、こうやって俺に噛み付いてくる羽柴も、なぜか俺に対して変な偏見を持ってる羽柴も、意外とよく笑う羽柴も、もっと知りたいって。

ーーーいつか、どうでもよくなる感情なんだろうか。

誤解を、とかないと。

「…羽柴、卑屈すぎ」

「卑屈なんだよ、それが性格。仕方ないだろ、僕はこの目の利用価値を見出すのに精一杯なんだ」

なんか言ってることよくわかんねぇけど。

「羽柴、こっち向いて」

「なんだよ、もう目は見せないよ」

「いいから」

ぐいっと羽柴の頬を両手のひらで包んで強制的に自分の方に向かせる。
口を尖らせながら「なんだよ」と微かに声をもらした羽柴。なんだよ、タコみたいでかわいいな。

「確かに、羽柴の目の秘密が気になってこうやって羽柴に関わったのは事実だけど、それだけじゃない」

「……嘘」

「嘘じゃないって、羽柴のこともっと知りたいって思ってるよ。そういう卑屈なところも全部含めて」

「神坂くん」

「なんだよ」

「…手が、カレーパンくさい」

「ああ、ごめん」