きみの青に飛び込む


意図的に、隠している。
長い前髪、眼鏡、コンタクト。すべて、この目を隠すためのカモフラージュなのだろうか。

なんだか、少しもったいないような。しかし、日頃の羽柴の様子を思い浮かべれば極力目立ちたくないという気持ちは理解できる気がした。

俺だったら『人と違う』ということを利用して目立ちまくる気がする。

「神坂くん」

「なに」

「そろそろ手、離して」

「ああ、ごめん」

手を離せば前髪というカーテンが羽柴の目を隠した。ああ、残念、もう少し見たかった、なんて。
そんなことを思っていると、羽柴は床に置いていた通学鞄を手に待ってゆっくりと立ち上がった。

床に押し付けられていた膝あたりが、廊下の汚れで少し白くなってしまっている。どんだけ必死に探してたんだよ。

「羽柴、膝、汚れてる」

半笑いでしゃがんだまま、羽柴の膝あたりのスラックスを手のひらで軽く叩くようにして汚れを落とす。

大人しくされるがままの羽柴を見上げれば、下からだからか瞳の青が少し見えた。
ぴたりと動きを止めた。やっぱり、綺麗。

その瞳が俺を見た。そして戸惑ったように一歩、身を後ろに引く。

「…ありがとう」

「いーえ、そろそろ行こうぜ。コンタクト、なくても大丈夫か?」

「うん」

「俺教室に忘れ物してて、ちょっと取ってくるからここで待ってて」

「分かった」

待ってて?
自分が放った言葉に首を傾げながら教室に入る。
ここで「じゃあな」と解散してもよかったのになぜかこのまま一緒に帰る流れになった。俺が自らそうした。
まあ、なんか困ってる様子だし。ほとんど初めて話したクラスメイトが、青い目で、それを隠しがっていて、なんだか、なんだろう、もう少し探りたい、的な。

自分の席の机の中に手を突っ込む。

「スマホあった?」

廊下で待っていた羽柴が教室の入り口から俺に声をかけた。少しびっくりして、肩をあげた。

机の中に置き去りになっていたスマホは先生に見つからないように奥底に押しやられており、目一杯腕を中に突っ込んでそれを捕まえたのち、すぐに取り出して羽柴の方に見せる。

「あった」

「よかった」

羽柴が短く笑う。
教室を出て羽柴と並んで歩き始めてふと違和感に気づいた。

「俺の忘れ物、スマホって羽柴に言ったっけ」

俺の疑問に、羽柴は少し黙ったまま床に顔を向ける。
そしてまた床と話し始めた。

「…わざわざ取りに来るってことは、大事なものかなって、勝手にスマホかなって、ごめん」

「いやいや、謝ることじゃないって。別に責めてないし」

そんなことより、だ。

「もしかして落としたコンタクトって、その目隠すためのもの?」

「…うん、度が入ってない黒色のコンタクト。それだけじゃ心配でいつもは眼鏡もかけてる」

「眼鏡も伊達メ?」

「うん…」

「そこまでするかね、普通」

「誰にもバレたくないんだ」

誰にもバレたくなかったのに、俺にバレたわけで。
待ってて、と言ったから待っていたのではなく、俺に改めてこの秘密を誰にもバラさないように牽制するためにこうやって一緒に帰っている可能性あるな。

そんなことを思いながら、靴箱で靴を取り出して床に放り出すと、片方が転がってすぐそばで靴を履いている羽柴の方に行った。

「やっかいなこと言われて、怒ってる?」

「怒ってるわけないじゃん、ごめん、俺、雑なんだよ」

転がった靴を追いかければ、羽柴との距離が近くなった。羽柴は屈んで踵を靴に収めている。
綺麗な青い目にうつることはなく、俺は今日ほとんど羽柴のつむじに話しかけている気がする。

「なあ、羽柴」

「うん?」

靴のつま先を何度か床にバウンドさせて踵を靴におさめたあと、羽柴を呼べば、羽柴は身をやっと伸ばしてほとんど同じ目線になった。
髪の隙間から覗く青をなんとか見ようとじっと羽柴の目を見つめた。

「誰にもバレたくないってことは、俺、このこと誰にも言ったらダメってことだよな」

「…うん」

「てか、コンタクトって両方落としたん?」

「コンタクトのことそんなに気になる?」

「いや、そんなことあるんだなって」

「両目落とした挙げく、眼鏡もしてないってそんなミラクルあんのかって疑ってる?メガネは今日たまたま家に忘れてコンタクトは気づいたら両目取れてたんだ。僕目はいいから落としたことに気づかなくて、今日教室の前の廊下で人とぶつかったから取れたとしたらその時かな、とか廊下歩いてる時に目が痒くなって両目擦っちゃったからかな、とか、まあそんな感じ」

「いきなりめっちゃ喋る…」