きみの青に飛び込む



秘密の利用価値はいずれ消え失せてしまうのだろうか。神坂くんとの距離が縮まれば縮まるほどその恐怖に打ちひしがれる。
自分が巻いたタネを回収できなくなった。


「荒牧さん、神坂のこと気になってるって言ってたよな」

神坂くんを取り巻くお調子者の男子の声。
神坂くんの方を見れば、隣の彼の方に顔を向けているせいで表情がよく見えない。
ぎゅっと拳を握った。

神坂くんはモテる。自分の秘密なんて彼に恋人ができてしまえば何も、何も。

ーーーーいやだ。

教室に入ってきた男子が持っている薄汚れた水が入ったバケツ。
反射的に僕は足を出した。こんな自分の欲は何事もなかったかのように飛び越えられていくのだろうと思ったのに、バケツを持った彼は容易く蹴躓いて、床に転がった。

自分の体にかかった水が、これは現実だと突きつけられる。

「羽柴くん大丈夫!?」

「う、うん、大丈夫、でもちょっと目に、なんか入った、かも」

眼鏡を外す。もう、この秘密に利用価値はなくなりそうなわけで。
だったらもうどうでもいいや、なんて。
そんなことを思った。

でも、心の奥底で、


「え、神坂、く」

「行くぞ」


こうなることを望んでいた。