好きって言ったらキスしてくれる?

(な、なんだ?)

 声に出してはいないし、居る場所もかなり離れているんだから、俺が考えていたことの内容が伝わったはずはないのに、妙にドキドキしてしまう。
 悠臣の名前を黒板に書き終わった出席番号二番が、声を張り上げる。

「あと一人~」

 その瞬間に悠臣の目がキラッと光り、俺はハッとした。

(あ……)

 俺を見たまま微動だにしないということは、俺に、自分と一緒にクラス委員になれということだろうか。

(は? ムリムリムリ)

 首を横にぶんぶん振ると、悠臣がニヤリと笑う。意図が伝わったと確信した笑いだ。
 ということは、やはり俺に、一緒にクラス委員になれと目線だけで言っている。

(無理だって!)

 俺がいくら首を振っても、顔をしかめてみせても、悠臣の視線は揺るがない。じっと俺を見たまま笑っている。

「誰かいないか~もう一人~クラス委員やる奴~」

 出席番号一番の奴が何回呼びかけても、誰も手を上げない。
 時間だけが過ぎていく中、一瞬も目を逸らさない悠臣に、じっと見られ続けていることに、俺はついに耐えられなくなった。

「だあーっ、もう! いいよ! 俺がやるよ!」

 バンと机を叩いて声を上げると、おおっと教室にどよめきが起こった。

「うおっ宝田、男前!」
「ちゃんと協力するからなぁ!」

 やむにやまれずの立候補だったが、次々とかけられる声は嫌じゃなかった。

「はい、じゃあ、宝田っと」

 黒板に並んで書かれた悠臣と自分の名前を確認して、改めて本人の方を見てみる。
悠臣は、もう俺を穴の開くほど見てはおらず、また周りの連中と談笑していた。

(なんなんだ……)

 俺は本当に、こいつのことがよくわからない。 
 
 LHRが終わるとすぐに、俺は窓際の席の悠臣のところへ行った。

「おいっ、どういうつもりだよ」

 周りの奴らに不穏に思われないために、小声で問いかけたので、悠臣が俺の声を確実に聞くためにだろうか、少し身を屈めてくれる。

「何が?」

 とぼけた返答に、俺は悠臣の腕をぐいっとひっぱった。

「なんで俺が、お前と一緒にクラス委員やることになるんだよ」
「ああ」

 悠臣がにっこり笑う。
 基本が笑顔のような奴なのでわかりにくいが、至近距離で見るこの笑顔には、ちょっと悪戯(いたずら)めいたところがある気がする。
 俺がそんなことを考えた時、悠臣は悪びれもせずに言った。

「宝田っていい奴だね、こっちでも一年間よろしく」
「————!」

 思わず頭をひっぱたきそうになり、自分で自分の手を止めた。
 歯痒さで頬が熱くなるのが自分でわかる。
 恨(うら)みがましい目で睨(にら)みながら、俺は真っ赤な顔をしているに違いないのに、悠臣はそんなことまったく気にしていないように笑っている。

「あ、担任が呼んでる……行こう」

 腕をつかんでいた俺の手を、逆につかみ直して、席の間を縫って教室の前の方へ向かって歩き出す。

(くそっ)

 釈然としない気持ちで手を引かれて歩きながら、今はこれがせいいっぱいと、俺は悠臣の広い背中を全力で睨みつけてやった。