好きって言ったらキスしてくれる?

 昨夜の誤解が解けて、悠臣は俺のことをちゃんと特別に思ってくれていると知れて、驚くほど気持ちが軽くなった。
 空と同じ色の花畑をどこまでも見渡しながら、他のことを考える心の余裕も、ようやく出てくる。

(そういえば……)

 駒沢先輩から俺を、文字どおり奪い取った時、悠臣は確か「俺の」とか言っていたが、あれはどういう意味なのだろう。

(…………)

 そのまま訊くのは恥ずかしくて、俺はわざと茶化した話し方をした。

「お前さ……さっきの……「俺の」ってなんだよ? 俺は誰かの所有物じゃないぞ」

 悠臣の言い方だと、「俺の」の後に少し間があったことには気が付いていた。
 おそらくそこへ入るのは「友だち」だとか「同室」だとか、俺たちの関係性を示す嬉しい言葉なのだろうと予想がつく。

 俺は少し浮かれていた。
 だから次に悠臣が何気なく答えた言葉に、想定以上の衝撃を受けた。

「ああ……俺の「大切な人」だよ」
「…………え?」

 冗談じゃなく本当に、目が飛び出るかと思った。
 それほど大きく目を見開いて、驚いている俺の顔を見て、悠臣も驚いた顔になる。

「え……?」

 こちらは、まさかそういうリアクションが来るとは、思っていなかったという驚きの顔だ。

「え?」
「え?」

 交互に何度も聞き返して、とてつもない恥ずかしさに耐え切れなくなり、木製の椅子からばっと立ち上がったのは、ほぼ同時だった。

「おま、おま……お前っ……!」

 それ以上何も言葉にできず、顔を真っ赤にして悠臣を指さし続ける俺。

「ま、待って! ちょっと待ってっ!」

 そんな俺の反応を見て、こちらは若干青くなりながら、必死に何かを制止しようとする悠臣。

「ひょっとして伝わってなかった!?」

 いつになく慌てた様子で訊かれるので、俺も食い気味に訊き返す。

「何が????」
「…………っ」

 額に一瞬手を当てた悠臣は、次の瞬間、それで俺の両耳を塞いだ。

「いったん聞かなかったことにして」
「えっ?」
「いいから忘れろ!」
「んなの、無理に決まってるだろ!」

 こちらとしては、とんでもなく嬉しい言葉を本人の口から聞かされたというのに、それを忘れるなんて絶対出来ない。嫌だ。

 ジタバタ抵抗する俺を悠臣が羽交い絞めにしている時、花が咲き乱れる丘の向こうから、声がした。

「ちょっとー! 次男くーん、まだぁ? すぐに済むって言ったじゃん……路駐だから早く移動したいんだけど~」

 聞きなれない声に、俺は首を傾げたが、悠臣はそんな俺の手を引いて、声のした方へ向かって一目散に走り始めた。

「すみません! 今戻りまーす!」

 ということは、謎の声の主が呼んだ相手は、悠臣ということになる。
 なんだか聞きなれない呼ばれ方をしていた気がするが、とっさのことだったので覚えてはいない。
 俺の手を引いて花畑を走る悠臣は、敷地に面した道路に停まっている真っ赤なスポーツカーを、目指しているようだった。