先輩の背中が完全に見えなくなったのを確認してから、悠臣は俺を、東屋にあった木製のベンチに座らせた。
怪我がないかあちこち確認されて、どこかへ投げ捨てられていた眼鏡を捜してきてかけてもらって、向き合って座ったら、いったい何から話せばいいのか、まったくわからなくなった。
「…………」
おそらく悠臣も同じだ。膝の上で両手を組んで、そこに視線を落としたまま固まってしまっている。
風にさらさらと揺れる茶色い髪から、見え隠れする形の良い耳が真っ赤なので、俺と同じように顔も熱くてたまらないはずだ。
いつまでも黙っているわけにもいかず、俺は仕方なく口を開いた。
「お前さ……なんでここにいるの?」
「なんでって……」
駒沢先輩に捕まって、どうしようもないところを助けてもらった割には、ありがたみの感じられない問いかけに、悠臣は特に気を悪くした様子はない。
こいつがそういう奴だと、俺はよく知っている。
「宝田が、ストーカー紛いの先輩と二人っきりで会うって押上が教えてくれたから、急いで追いかけて来たんじゃないか」
(押上……)
確かに俺は、先輩のことを悠臣に話すなと口止めはしていなかったが、中谷以外の人間にあまり興味が無さそうな押上が、わざわざ教えてやったという事実に、少し驚いていた。
「あいつ……」
多少の嬉しさを滲ませて呟く俺に、悠臣はいかにも不満たっぷりの目を向ける。
「そんな重要な話、他の奴から聞かされた俺の気持ちがわかる? なんで一番に、俺に相談しないんだよ」
拗ねるような口調を嬉しく思いながらも、俺も負けじと言い返した。
「だってお前、俺の護衛はしたくないって言ったじゃん」
「え? そんなこと言ってない」
「はああ? じゃあ昨夜のあれは何だよ」
こっちは、これまでの人生で一番と言っていいほど落ち込んで、泣いて一晩を明かしたのだ。
いくら今は立ち直って、こうして悠臣と論戦を繰り広げるほどの元気を取り戻したといっても、なかったことにされるのは心外だ。
「それは……バイトとして俺を雇いたいって、宝田が言ったからだろ」
ぴしゃりと言い返されて、俺は首を捻った。
「は?」
そういう流れだったかと、俺は昨夜のやり取りを思い出そうとする。
とにかく悠臣に断られたことがショックで、実を言えば細部は覚えていないが、話の流れ的には、悠臣の言うとおりだった気がしないでもない。
「バイトとして依頼されるんじゃなくて、お前個人として頼ってくれるんなら、俺はどんな手助けだってするよ。当たり前だろ」
少しきつめに睨まれて、俺はうな垂れた。
「ゴメン……」
その頭に、悠臣の手が載った感覚がする。
「俺こそ、ゴメン……半分八つ当たりだ」
「?」
悠臣がそんなことをするだろうかと、俺は顔を上げる。
悠臣は困ったような顔で、俺を見ていた。
「わざわざ教えてもらわなくても、お前が困ってるってこと、何か悩んでるってこと、自分で気づきたかったってのが、たぶん俺の本音だ」
悠臣は「あーあ」と空を見上げた。
「かっこわる」
そんなことがあるはずないと、俺は悠臣の横顔を見つめる。
「お前はいつだってかっこいいよ」
「え?」
「……え?」
心の中で思ったつもりだったのに、まちがえて声に出してしまっていたらしく、驚いたように俺の顔を見た悠臣と目が合い、心底焦る。
「うわあああああ!」
椅子からひっくり返りそうになり、すかさず悠臣が背中を支えてくれた。
「大丈夫か?」
その対応の速さ、ソツなさに、俺はもう、いろいろごまかすことが馬鹿らしくなる。
「ほら……な? かっこいいだろ?」
笑いながら言うと、悠臣は顔を真っ赤にして俯いてしまった。
怪我がないかあちこち確認されて、どこかへ投げ捨てられていた眼鏡を捜してきてかけてもらって、向き合って座ったら、いったい何から話せばいいのか、まったくわからなくなった。
「…………」
おそらく悠臣も同じだ。膝の上で両手を組んで、そこに視線を落としたまま固まってしまっている。
風にさらさらと揺れる茶色い髪から、見え隠れする形の良い耳が真っ赤なので、俺と同じように顔も熱くてたまらないはずだ。
いつまでも黙っているわけにもいかず、俺は仕方なく口を開いた。
「お前さ……なんでここにいるの?」
「なんでって……」
駒沢先輩に捕まって、どうしようもないところを助けてもらった割には、ありがたみの感じられない問いかけに、悠臣は特に気を悪くした様子はない。
こいつがそういう奴だと、俺はよく知っている。
「宝田が、ストーカー紛いの先輩と二人っきりで会うって押上が教えてくれたから、急いで追いかけて来たんじゃないか」
(押上……)
確かに俺は、先輩のことを悠臣に話すなと口止めはしていなかったが、中谷以外の人間にあまり興味が無さそうな押上が、わざわざ教えてやったという事実に、少し驚いていた。
「あいつ……」
多少の嬉しさを滲ませて呟く俺に、悠臣はいかにも不満たっぷりの目を向ける。
「そんな重要な話、他の奴から聞かされた俺の気持ちがわかる? なんで一番に、俺に相談しないんだよ」
拗ねるような口調を嬉しく思いながらも、俺も負けじと言い返した。
「だってお前、俺の護衛はしたくないって言ったじゃん」
「え? そんなこと言ってない」
「はああ? じゃあ昨夜のあれは何だよ」
こっちは、これまでの人生で一番と言っていいほど落ち込んで、泣いて一晩を明かしたのだ。
いくら今は立ち直って、こうして悠臣と論戦を繰り広げるほどの元気を取り戻したといっても、なかったことにされるのは心外だ。
「それは……バイトとして俺を雇いたいって、宝田が言ったからだろ」
ぴしゃりと言い返されて、俺は首を捻った。
「は?」
そういう流れだったかと、俺は昨夜のやり取りを思い出そうとする。
とにかく悠臣に断られたことがショックで、実を言えば細部は覚えていないが、話の流れ的には、悠臣の言うとおりだった気がしないでもない。
「バイトとして依頼されるんじゃなくて、お前個人として頼ってくれるんなら、俺はどんな手助けだってするよ。当たり前だろ」
少しきつめに睨まれて、俺はうな垂れた。
「ゴメン……」
その頭に、悠臣の手が載った感覚がする。
「俺こそ、ゴメン……半分八つ当たりだ」
「?」
悠臣がそんなことをするだろうかと、俺は顔を上げる。
悠臣は困ったような顔で、俺を見ていた。
「わざわざ教えてもらわなくても、お前が困ってるってこと、何か悩んでるってこと、自分で気づきたかったってのが、たぶん俺の本音だ」
悠臣は「あーあ」と空を見上げた。
「かっこわる」
そんなことがあるはずないと、俺は悠臣の横顔を見つめる。
「お前はいつだってかっこいいよ」
「え?」
「……え?」
心の中で思ったつもりだったのに、まちがえて声に出してしまっていたらしく、驚いたように俺の顔を見た悠臣と目が合い、心底焦る。
「うわあああああ!」
椅子からひっくり返りそうになり、すかさず悠臣が背中を支えてくれた。
「大丈夫か?」
その対応の速さ、ソツなさに、俺はもう、いろいろごまかすことが馬鹿らしくなる。
「ほら……な? かっこいいだろ?」
笑いながら言うと、悠臣は顔を真っ赤にして俯いてしまった。



