悠臣に『奏先輩』と呼ばれたピンク髪の先輩は、得意そうな顔をして、大きな紙を掲げている。
A3サイズくらいのその紙には、桜の木の下でキスする悠臣と先輩の写真が、遠くから見た風景として印刷されていた。
「ひえっ」
我慢できず、変な声が出てしまったが、誰も聞いていない。
その紙をのぞきこんだ周りの連中は、一斉にまくしたてる。
「先輩、キタとキスしたんすか?」
「マジで?」
「するわけないでしょ、フリだよ、フリ」
「さすがキタ、絵になるぅ」
「これって、演劇部の新歓用のポスターですか?」
「そう! ステキでしょ」
よく見ると確かに、『青春全開!』『来たれ演劇部』などと、写真の上や下には文字が入っている。
矢継ぎ早に質問する周りの連中のおかげで、俺にはだんだん事の真相が見えてきた。
(なるほど……)
つまり、悠臣と先輩が前庭でキスしていたように見えたのは、このポスターの撮影用だったということだ。
入寮早々、人の情事を垣間見てしまったという後ろめたさと決まり悪さから、ようやく解放され、俺はホッと息を吐く。
(なんだ……よかった……)
と同時に、逆にだんだん「とある事」が気になり始めた。
「キタ、演劇部入んの?」
「いや、そういうわけじゃないよ」
「中学の時みたいに、必要な時だけ、どの部にでも力を貸す『助っ人』?」
「うーん……そうなるかな……」
「キタ、なんでも出来るもんな」
「バイト、バイトで忙しいしな」
どうやら中学時代からの友人らしい奴らも、奏先輩も、悠臣のことを「キタ」と呼ぶ。
(みんな名前で呼ぶから、俺にもそうしてくれって……言わなかったか?)
疑いの思いを込めて、俺は呼びかけた。
「悠臣?」
ハッとしたように俺の顔を見た悠臣は、ニヤッと笑ってから、すぐにふいっと顔を逸らす。
その一連の動作に、俺は火が点いたように頬が熱くなる。
(こ、こいつ……確信犯だ!)
コロッと騙されたのが悔しいのか、恥ずかしいのか、とにかくどんどん顔が赤くなっているだろうことが自分でもわかる。
悠臣の腕を掴んだまま、わなわなと肩を震わせている俺に、奏先輩が楽しそうに話しかけてきた。
「キタを名前で呼ぶ子って珍しい。きみ、明成中じゃなかったよね? えっと……」
俺が返事をするよりも先に、悠臣が涼しい声できっぱりと言い切った。
「俺と同室の宝田です」
「そう、宝田君。僕は二年の三崎奏。キタとは同じ中学だったんだ。よろしくね」
「こ、こちらこそよろしくお願いします!」
失礼にならないように慌てて頭を下げてから、気がついた。
悠臣が俺を「宝田」と紹介しまくってくれたおかげで、みんなあっさりと俺を「宝田」呼びしている。
名前じゃなく名字で呼んでほしいなんて、わざわざ俺がお願いしなくても——。
(わざと……?)
頭を上げてから、改めて隣の悠臣の顔を見直してみても、他の奴らと楽しそうに談笑している横顔からは、何も読めない。
それでも、意識してなのか無意識なのかはともかく、俺の高校生活のスタートに悠臣が一役買ってくれたふうなことには、心の中でひとまず感謝しておくことにした。
A3サイズくらいのその紙には、桜の木の下でキスする悠臣と先輩の写真が、遠くから見た風景として印刷されていた。
「ひえっ」
我慢できず、変な声が出てしまったが、誰も聞いていない。
その紙をのぞきこんだ周りの連中は、一斉にまくしたてる。
「先輩、キタとキスしたんすか?」
「マジで?」
「するわけないでしょ、フリだよ、フリ」
「さすがキタ、絵になるぅ」
「これって、演劇部の新歓用のポスターですか?」
「そう! ステキでしょ」
よく見ると確かに、『青春全開!』『来たれ演劇部』などと、写真の上や下には文字が入っている。
矢継ぎ早に質問する周りの連中のおかげで、俺にはだんだん事の真相が見えてきた。
(なるほど……)
つまり、悠臣と先輩が前庭でキスしていたように見えたのは、このポスターの撮影用だったということだ。
入寮早々、人の情事を垣間見てしまったという後ろめたさと決まり悪さから、ようやく解放され、俺はホッと息を吐く。
(なんだ……よかった……)
と同時に、逆にだんだん「とある事」が気になり始めた。
「キタ、演劇部入んの?」
「いや、そういうわけじゃないよ」
「中学の時みたいに、必要な時だけ、どの部にでも力を貸す『助っ人』?」
「うーん……そうなるかな……」
「キタ、なんでも出来るもんな」
「バイト、バイトで忙しいしな」
どうやら中学時代からの友人らしい奴らも、奏先輩も、悠臣のことを「キタ」と呼ぶ。
(みんな名前で呼ぶから、俺にもそうしてくれって……言わなかったか?)
疑いの思いを込めて、俺は呼びかけた。
「悠臣?」
ハッとしたように俺の顔を見た悠臣は、ニヤッと笑ってから、すぐにふいっと顔を逸らす。
その一連の動作に、俺は火が点いたように頬が熱くなる。
(こ、こいつ……確信犯だ!)
コロッと騙されたのが悔しいのか、恥ずかしいのか、とにかくどんどん顔が赤くなっているだろうことが自分でもわかる。
悠臣の腕を掴んだまま、わなわなと肩を震わせている俺に、奏先輩が楽しそうに話しかけてきた。
「キタを名前で呼ぶ子って珍しい。きみ、明成中じゃなかったよね? えっと……」
俺が返事をするよりも先に、悠臣が涼しい声できっぱりと言い切った。
「俺と同室の宝田です」
「そう、宝田君。僕は二年の三崎奏。キタとは同じ中学だったんだ。よろしくね」
「こ、こちらこそよろしくお願いします!」
失礼にならないように慌てて頭を下げてから、気がついた。
悠臣が俺を「宝田」と紹介しまくってくれたおかげで、みんなあっさりと俺を「宝田」呼びしている。
名前じゃなく名字で呼んでほしいなんて、わざわざ俺がお願いしなくても——。
(わざと……?)
頭を上げてから、改めて隣の悠臣の顔を見直してみても、他の奴らと楽しそうに談笑している横顔からは、何も読めない。
それでも、意識してなのか無意識なのかはともかく、俺の高校生活のスタートに悠臣が一役買ってくれたふうなことには、心の中でひとまず感謝しておくことにした。



