その日は、放課後にクラス委員の委員会があり、俺は中谷と押上と一緒に寮へ帰っていた。
「やっぱり今日も、先輩来てるね……」
途中で、中谷が少し不安そうに俺に耳打ちする。
道の向こうのコーヒーショップのテラス席に、見慣れた姿を見つけた俺は、中谷に頭を下げた。
「……悪い」
「ううん! 宝田くんが謝ることじゃないよ!」
そうなのかもしれないが、罪悪感のようなものを抱かずにはいられない。
「今日は俺が居るから、寄ってこないだろ」
押上が、中谷と俺を庇うように、わざと道路側を歩く。
コーヒーショップを通り過ぎて、ふり返って見た時には、もうテラス席に駒沢先輩の姿はなかった。
実際、俺が中谷以外の奴と一緒の時は、先輩は声をかけてこない。
一人の時と、中谷と二人の時だけ、近づいてくる。
そういう、先輩の中での決まりのようなものが、昔からある人だった。
「お前たち二人なら、どうとでもできると思ってるんだろ……舐められてるんだよ」
押上の見解は、おそらく当たっている。
そういうことを言われると、普段の俺なら烈火の如く怒るとわかっていて言ったらしく、何も反論しない俺に、押上が調子悪そうに頭を掻く。
「宝田さあ」
珍しく押上に呼ばれて、俺は奴の顔を見上げた。
俺の方は見ずに、押上は問う。
「キタに、このこと話したのか?」
「え?」
突然悠臣の名前を出されて、ドキリとした。
なぜ突然、押上がそんなことを言い出したのかわからずに、困惑する。
悠臣は体育祭が終わってから例のバイトが忙しく、消灯近くにならないと寮の部屋へは帰ってこない。当然、今日の委員会も欠席している。話す暇などない。
そもそも、実際に駒沢先輩と会った中谷や、中谷から話を聞いた押上は別として、俺は先輩の話を、自分から積極的に広めるつもりはない。
いや、広めたくない。
(あ……)
そこまで考えて、悠臣にはできれば知られたくないと思っている自分の気持ちに気がついた。
「言ってない」
言うつもりもないということを言外に滲ませて答えると、押上が苦虫を噛み潰したようなしかめっ面になる。
「言ってやれよ」
「…………」
なぜ押上がそんなふうに言うのか、不機嫌なのか、理由がわからない。
でも俺としても、こんなことをわざわざ悠臣の耳に入れるつもりはない。
黙ったままの二人の険悪な雰囲気に困ったらしく、中谷が押上の制服の袖を引く。
「浩……」
諫めるように奴の名前を呼んで、俺には小さく笑いかけた。
「キタくん頼りになるから……相談してみてもいいと思うよ?」
それは確かにそうだと思うので、嫌だという自分の感情はひとまず横に置いておいて、同意の意味で中谷には頷いた。
「…………うん」
だけどそれを実行に移すことは、やっぱり無いだろうとも思っていた。
「やっぱり今日も、先輩来てるね……」
途中で、中谷が少し不安そうに俺に耳打ちする。
道の向こうのコーヒーショップのテラス席に、見慣れた姿を見つけた俺は、中谷に頭を下げた。
「……悪い」
「ううん! 宝田くんが謝ることじゃないよ!」
そうなのかもしれないが、罪悪感のようなものを抱かずにはいられない。
「今日は俺が居るから、寄ってこないだろ」
押上が、中谷と俺を庇うように、わざと道路側を歩く。
コーヒーショップを通り過ぎて、ふり返って見た時には、もうテラス席に駒沢先輩の姿はなかった。
実際、俺が中谷以外の奴と一緒の時は、先輩は声をかけてこない。
一人の時と、中谷と二人の時だけ、近づいてくる。
そういう、先輩の中での決まりのようなものが、昔からある人だった。
「お前たち二人なら、どうとでもできると思ってるんだろ……舐められてるんだよ」
押上の見解は、おそらく当たっている。
そういうことを言われると、普段の俺なら烈火の如く怒るとわかっていて言ったらしく、何も反論しない俺に、押上が調子悪そうに頭を掻く。
「宝田さあ」
珍しく押上に呼ばれて、俺は奴の顔を見上げた。
俺の方は見ずに、押上は問う。
「キタに、このこと話したのか?」
「え?」
突然悠臣の名前を出されて、ドキリとした。
なぜ突然、押上がそんなことを言い出したのかわからずに、困惑する。
悠臣は体育祭が終わってから例のバイトが忙しく、消灯近くにならないと寮の部屋へは帰ってこない。当然、今日の委員会も欠席している。話す暇などない。
そもそも、実際に駒沢先輩と会った中谷や、中谷から話を聞いた押上は別として、俺は先輩の話を、自分から積極的に広めるつもりはない。
いや、広めたくない。
(あ……)
そこまで考えて、悠臣にはできれば知られたくないと思っている自分の気持ちに気がついた。
「言ってない」
言うつもりもないということを言外に滲ませて答えると、押上が苦虫を噛み潰したようなしかめっ面になる。
「言ってやれよ」
「…………」
なぜ押上がそんなふうに言うのか、不機嫌なのか、理由がわからない。
でも俺としても、こんなことをわざわざ悠臣の耳に入れるつもりはない。
黙ったままの二人の険悪な雰囲気に困ったらしく、中谷が押上の制服の袖を引く。
「浩……」
諫めるように奴の名前を呼んで、俺には小さく笑いかけた。
「キタくん頼りになるから……相談してみてもいいと思うよ?」
それは確かにそうだと思うので、嫌だという自分の感情はひとまず横に置いておいて、同意の意味で中谷には頷いた。
「…………うん」
だけどそれを実行に移すことは、やっぱり無いだろうとも思っていた。



