好きって言ったらキスしてくれる?

 いつもの店で、いつものように向き合って座り、パフェを食べながら、中谷はご機嫌だった。

「僕ね、押上くんと部屋が分かれちゃったのは残念だけど……この間のミーティングのキタくんには、なんか感動したんだ」
「え?」

 コロコロと笑いながら、いろんな話題を行き来する中谷の話を、なんとはなしに聞いていたので、ふいに悠臣の名前が出てきて、俺はドキリとした。

「キタくんて、いつも優しくて、なんでも「いいよ、いいよ」って引き受けてくれるでしょう?」

 他の人間から見た悠臣の印象を、改めて聞かされるというのは、なかなか新鮮な感覚だ。
 その感想が、俺が抱いているイメージとほぼ同じなので、なんだか嬉しいような、誇らしいような気持ちになる。

「そうだな」

 頷くと、中谷が大きな丸い目で、俺の顔を上目遣いに見た。

「だから、あんなにきっぱり断るのは珍しいな……そんなに宝田くんのことは特別なんだなって……思った」

 中谷の視線に探るような色を感じたので、俺は内心ドキドキしながらも、せいいっぱい普通のフリをする。

「そんなんじゃねえよ」
「そうかな?」

 中谷はぱくっとパフェを口に運んで、斜め上の空間を見つめる。
 たぶんあの時の光景を思い出しているんだろう。

「かっこよかったな……」
(…………かっこよかった)

 心の中では同じことを思ったが、それを漏らすわけにもいかず、俺は中谷の額を軽く小突いた。

「押上にチクるぞ」
「えーっ、やめてよぉ」

 中谷は慌てて、いろいろ弁解しているが、顔を真っ赤にして手を振りまくる仕草が可愛い。
 どんな話をしても、何があっても、結局は押上のことが一番好きだと、表情からも態度からもすぐにわかる。

(いいな……)

 一瞬考えてしまって、その考えを振るい落とすように、俺は頭をブルブルと何度も振った。

(なに考えてんだ)

 中谷が押上に抱いているのと似たような感情を、俺は悠臣に抱いているかもしれないが、置かれている状況がまったく違う。
 中谷は、押上からも同じような感情を向けられて、それをお互いにわかっていて、みんなの前で堂々と宣言すらした。
 だから部屋が分かれても、気持ちの部分で何も変わらないとわかりあっているのだろうし、だからこうして笑っていられる。

 でも俺と悠臣は、そういう感情ではなく、お互いの利害が一致しているから、同室という今の環境を守ろうとしている。
 そもそも根本からまったく違っていて、二人の仲をうらやましく思うような立ち位置にさえいない。
 考えると落ち込むばかりだから、なるべく悠臣のことは考えたくないのに、何を見聞きしても結局行きついてしまう。

(くそっ……)

 腹立ちまぎれに前髪をかき上げた時、空いている席を探しながら、前から歩いてくる人と目が合った。

(…………あ)

 見覚えのある顔に、心臓がドキリと跳ねて、慌てて顔を伏せたが、もう遅かった。

「皆実(みなみ)ちゃん?」

 眼鏡をかけた、背の高いその人は、昔と変わらない声音で、親しげに俺の名前を呼んだ。

「え? え?」

 状況がわからず、その人と俺を見比べている中谷の手前、無視することもできない。

「お久しぶりです……駒沢(こまざわ)先輩」

 仕方なく、頭を下げながらそう言うと、眼鏡の奥の瞳がきらっと光った。

「うん、久しぶり」

 それは——出来ればもう会いたくないと、俺が思っていた人だった。