好きって言ったらキスしてくれる?

 結局、中谷と押上の部屋替えは、奏先輩が提案したように、とりあえず別部屋で一人ずつということに決定した。

「おい、これどこに置くんだよ」
「あ! それはこっち!」

 俺は中谷の引っ越しを手伝いながら、新しい部屋への荷物の運び込みにも、当然のように参加している押上を見る。

「円(まどか)、これも忘れてる」
「あ! ごめんね浩(こう)」

(二人の時は、あたり前のように名前で呼び合うんだ……)

 なんてことを思いながら、あまりにもじっと見ていたので、押上に睨まれた。

「なんだよ」
「なんでもない」

 家庭科部所属で、料理や裁縫が得意という実像を知ってから、前ほど押上のことを怖い奴だとは思わなくなったが、睨まれれば迫力があることはちがいない。
 それなのに、中谷相手には不器用な優しさを示すから、見ているこちらがむず痒くなる。

「よし! これでだいたい終わったかな」

 新しい中谷の部屋には、押上お手製だという大きなライオンのぬいぐるみがあった。
「これで一人でも寂しくない」と、空いたベッドに座らせてニコニコしている中谷を見ている押上の顔は、蕩けそうに優しくて——ダメだ、胸やけしそうで、もう見ていられない。
 それに、そういう幸せとはほど遠い現状の俺の胸には、普通の人以上に鋭く突き刺さる。

「じゃ、俺はこれで……」

 お邪魔だろうと、早々に部屋を出ようとすると、中谷に腕を掴まれた。

「お礼するから行かないで、宝田くん! 一緒にパフェ食べに行こう」

 中谷は、自分のベッドに座る押上をふり返って、そちらにはバイバイと手を振る。

「浩はもう自分の部屋に帰ったほうがいいよ。別部屋になった意味がないって怒られちゃう……ありがと」

 邪魔だとでも言うように退室を促されて、押上が鬼のような形相で俺を睨んでいるが、勘弁してほしい。

(俺のせいじゃないだろ、俺の)

 中谷に手を引かれて部屋を出ながら、帰ってきた後もなるべく押上と顔を会わせないようにしようと心に誓った。