好きって言ったらキスしてくれる?

 結果、俺と悠臣は、五十風先生と三年生を抜いて、ゴール直前で中谷と押上も抜き去り、一番でゴールテープを切った。

「「「うおおおおおおっ!!!」」」

 楓寮はたいそうな盛り上がりだったが、ピンクのドレスに身を包んだ奏先輩は、わざわざ借り物競争のゴール地点までやってきて、俺と悠臣に注意した。

「あのねぇ……中谷と押上が一番でも楓寮の得点なんだから、そんなに会場を沸かせなくていいの」
「あ……そうか」

 そのことに初めて気づいたとばかりに、悠臣は目をぱちぱち瞬かせる。
 ちなみに俺を抱きかかえたままだ。

「まあ、盛り上がったからいいけど……桑原悔しそう……ふふっ」

 柊寮の応援席で、頭を抱えている桑原先輩の姿を見て、小悪魔みたいに笑っている奏先輩は、綺麗にメイクしてピンクの髪も巻いて、本物の女の子以上に可愛い。

「次は仮装リレーだから、ちょっと王子様借りるね」

 奏先輩は、俺に向かって悪戯っぽく笑いかけると、悠臣の背中を軽く叩いた。

「キタもいつまでニヤニヤしてんの……行くよ。宝田降ろして」
「…………」

 悠臣は何も言わず俺を地面に立たせると、頭をぐしゃぐしゃと撫でて、誰にも聞こえないくらい小さな声で呟く。

「ありがと」
「————!」

 息が止まって、無理にそれを吐こうとすると、代わりに熱いものが喉の奥にこみ上げて来そうで、俺は口を開くことができなかった。

 固まったように動けない俺の頭を、もう一度ポンと叩いて、悠臣はピンと背筋を伸ばし、奏先輩と腕を組んで去っていく。まるで本物の『王子様』みたいに。

 だんだん遠くなるうしろ姿を、息を呑んだまま見送りながら。
 仮装リレーという名の行進で、奏先輩を完璧にエスコートする姿を遠く見ながら。
 演劇部勧誘のポスター用の写真を撮っていた時のように、キスするフリをする二人の姿に思わず目を背け、今日一番の歓声が上がるのをどこか遠い世界の出来事のように感じながら。

 ようやく気づいたことがあった。

(そうか、俺……悠臣のことが好きなんだ……)

 それはたぶん、中谷と押上が互いに向けるのと同じような思いで——。

 長く喉の奥に引っ掛かっていたものの正体が、ようやくわかった安堵と同時に、奏先輩を抱きしめる悠臣の残像に、胸が千切れそうに痛くなることも実感した。