好きって言ったらキスしてくれる?

「ごめん! ほんとに、ごめんて!」

 午前の競技が終わって、昼食の時間。それぞれ好きな場所で、寮母さんが作ってくれた弁当を食べる間、悠臣が時々思い出したように謝ってくるが、俺はそれになんと返していいのか困惑している。

「そんなに怒んなよー、別にいいじゃん」

 同じ楓寮で、クラスも同じ前田は、軽いノリで悠臣の肩を持つ。

「俺だったら、チアガールのキタにほっぺにキスされたら、喜んじゃうけどなー」
「そうそう」

 大橋も高梨も、それに同意して笑っているが、そういうことじゃない。

(怒ってるわけじゃない。ただ……なんだ、これ? なんなんだ?)

 自分でもよくわからないが、ものすごく恥ずかしくて、体温が異常に高くて、心音がバカでかくて、動揺している——そう! 動揺している。

 でもこの状態をそのまま言葉にすると、最初の「怒ってるわけじゃない」の部分で、もう外野のガヤが入りそうで、口を噤むしかない。
 仕方なく悠臣には、俺が思っていることのわずかな部分しか伝えられない。

「いいって、もう」
「……ごめん」

 いつになくしょげた様子で、弁当を黙々と口に運ぶから、本当はもっといろいろ思っていることを伝えたい。
 でも他の奴らもいる場所じゃ、余計な口を挟まれそうで、何も言えない。
 自分の意地っ張りな性格が恨めしかった。

(くそっ、もう体育祭終わらないかな)

 そうすれば寮の部屋へ帰って、他の誰もいないところで、悠臣ともっといろいろ話が出来る。
 しかし体育祭は、今ちょうど折り返しで、まだまだ部屋に帰れそうにはない。

「宝田、応援合戦の次は何?」

 前田に聞かれたので、自分が出場する予定の種目を頭に思い浮かべた。

「綱引きと大玉転がし……個人は借り物競争で終わり」
「借り物競争か……」
「ずっとチアガールで出んの?」
「出るか!」

 大橋の質問に、しかめっ面してみせる。長い前髪のせいで、ほぼ見えはしないのだが。

「応援合戦が終わったら、すぐ脱ぐわ!」
「ええーっ」
「サービス精神がないなぁ」
「うるせ」
「キタは? チアガールで居んの?」

 高梨の問いかけに、悠臣は首を横に振る。

「俺も仮装リレーに出るから、応援合戦が終わったらいったん着替えるよ」
「そうかぁ」

 残念そうにため息を吐く前田たち越しに、ちらっと悠臣を見る。
 ちょうど悠臣も俺を見て、目が合って、お互い慌てた末に、視線を逸らした。

(っ……変な感じ……)

 悠臣と顔を見合わせるのが気まずいなんて、これからどうしたらいいんだ。
 また顔が熱くなって、俺は頭をかきむしる。
 一瞬見えた悠臣の顔も、赤かったような気がした。