好きって言ったらキスしてくれる?

「宝田、ちょっとお願いがあるんだけど……」

 自分が出場する800M走の招集前に、悠臣がふいに言い出した。

「俺が走る時、ゴールで待っててほしいんだ」
「は? この格好で?」

 思わず不満げに聞き返してしまったのは、その時俺はチアガールの扮装だったから。
「くくく」と面白そうに喉の奥で笑ってから、悠臣は「そう!」と言い残し、俺の返事も待たずに行ってしまった。

「おい、悠臣! こら! …………」

 仕方なく俺は、応援席からグラウンドに出て、800M走のゴール付近の場所で待機する。

「おっ、チアガール」

 冷やかし気味に声をかけてくる奴は、睨みつけて威嚇した。

「おお、怖っ」

 さすがに先輩方には睨みはしないが、むすっとした顔をしていると、みんな笑って行ってしまう。

「宝田ーもう少し愛想よくしろよー相方みたいにー」

 その相方——悠臣は、800M走のスタート地点にいる。
 さすがにチアガールの衣装は脱いで、体育着に着替えているが、遠目に見てもすぐにわかるくらい、他の奴とは纏う雰囲気が違う。均整の取れたスタイルをしていて、とにかく足が長い。俺の1、5倍くらいありそう。

(あんなの……速いに決まってるだろ)

 予想どおり、悠臣はスタートから他の奴らを大きく引き離して、一度も首位を譲ることなく、ぶっちぎりで走り続ける。

(マジか……)

 フォームの綺麗な走りに、最初のうちこそぼーっと見惚れていたが、俺の今日の使命は応援だと、途中ではっと気がついた。

「頑張れー悠臣ー」

 ゴールでぶんぶん手を降る俺に向かって、悠臣は一直線に走ってきた。
 一番でゴールテープを切ってもそのまま足を止めず、勢いのまま飛びつくと、俺を自分の頭より高い位置まで持ち上げる。

「え? は? おいっ!」

 完全に「高い高い」の体勢だ。お父さんが子どもにやるヤツ。
 ご機嫌な悠臣は、「ははは」と声を上げて笑っているが、俺としては冗談じゃない。
 ただでさえグラウンドにチアガール姿で浮いているのに、これ以上目立ってたまるか。

「降ろせ! バカ悠臣!」

 いくら言っても、腕をバシバシ叩いても、悠臣は俺をしばらく降ろさなかったし、嬉しそうに笑うのもやめなかった。