好きって言ったらキスしてくれる?

 体育祭、当日。俺は目の回るような忙しさというのを、実際に体験した。

 団体競技は全て、個人競技も二つ出場するというのに、それ以外の順位が付く競技の度に、チアガールの服に着替えて応援するというのは多忙過ぎる。

(やってられるか!)

 必要ない時はなるべく体育着に戻ろうと思っていたのに、着替えが面倒になって、もうほぼチアガールのままでいる。

「宝田……頼むから足は閉じてくれ」
「夢が壊れる……」

 ミニスカートでいつものように座っていると、級友たちが苦言を呈してくるが、知ったことか。

「だいたい、なんでいつもどおりのぼさぼさ頭なんだよ……」
「少しはキタを見習えよ……せめてコンタクトにしてみるとか……」
「するわけないだろ!」

 腕組みして言い返すと、みんな諦めたように口を閉ざす。

(俺は代理で、急遽チアガールになったんだから、これ以上要求するな!)

 そもそも悠臣と一緒にしないでほしい。
 さすがに体育祭当日は、ウィッグこそ被っていないものの、奏先輩にうっすらメイクされて、サイドの髪を編み込んだりしている悠臣は、スカート姿に違和感がないほど可愛い。

(ちょっとデカいけど)

 長すぎる前髪をいじることも、眼鏡を取ることも断固拒否なのを条件として、チアガールの扮装をしている俺とは完成度が違って当然だ。

 その悠臣は、俺と一緒に声援を送り、個人種目で良い成績を取った奴には笑顔で投げキスのサービスをして、楓寮ばかりか他寮の連中にも、ぎゃあぎゃあ言われている。

(なんだかな)

 もやっとする思いを抱えながら、俺自身は、せめて声援だけは悠臣に負けないように、腹から大声を出していた。

「大橋——! こら、負けんなー!」
「高梨——! そんな奴、ぶっ飛ばせー!」

 周りの連中が、「宝田……言い方……」と悲しそうな目を向けてくるが、知るか。
 応援なんて、どこよりも大きな声で自軍の選手の名前を叫んだ者勝ちだろ。

 隣で悠臣が笑いながら、「負けんなー」「ぶっ飛ばせー」と俺の言葉尻だけ真似て、声を被せてくる。
 その笑顔で選手がやる気を出すのなら、応援としては大成功だろうなんてことを、俺は考えていた。