好きって言ったらキスしてくれる?

「それじゃひとまず、中谷が抜けた後のチアガールをどうするかだけど……」

 大騒ぎになった応援団の雰囲気が、少し落ち着いてから、奏先輩は切り出した。
 中谷もその隣に立つ押上も、申し訳なさそうに改めて頭を下げる。

「立候補……って言っても、今更誰もいないよね」

 団員たちはみんな顔を見合わせて、無理無理と首を横に振りあっている。

「僕が出来たらいいんだけど、無理だからな……」

 困ったように首を傾げる奏先輩を、悠臣も困ったように見ている。
 こういう時、いつもなら真っ先に、悠臣が「じゃあ俺がやりましょうか?」と手を挙げる。
 だけど今回ばかりは、その調子でもう一人のチアガールと既に決まっているので、名乗りを挙げることは出来ない。
 めずらしく悔しそうな顔をしていることが気にかかる。

「いざとなったら俺一人でも、二人分頑張ります!」

 勢いよく言っているが、さすがにカラ元気だとわかる。

(俺……)

 俺は激しく葛藤していた。

 俺ならば悠臣のために振りを覚えていたので、チアガールの動きがわかる。
 俺ならば中谷と背格好が変わらないので、あまり手直しがなくあの衣装が着れる。
 それに、残念ではあるが、おそらくここにいる誰よりもその——チアガールの経験がある。

(だけど……)

 高校ではもう絶対に、同じ轍を踏まないと心に誓った。
 それでこれまで、顔も隠して、なるべく目立たないようにして、肩肘張って硬派で通してきた(つもりだ)。
 だけど——。

(みんなが困ってる……中谷がかわいそう……)

 いろんな思いが胸の中で絡みあう中、こういう事態をどうにかできない悠臣の悔しそうな顔が、一番俺の気持ちをひっくり返した。

(ええい! しょうがない!)

 気持ちを切り替えて、俺はバッと手を挙げた。

「俺がやります! チアガール!」

 はっとしたように、悠臣が俺の顔を見た気配がする。
 でも今はそちらへ視線を向けない。向けたらいけないような気がした。

「おおっ、宝田! よく言った!」
「でも……大丈夫か?」
「まあ、仕方ないか……」

 中谷や悠臣がやると言った時より、みんなの反応がずいぶん悪いような気がするが、仕方ない。
 俺だって不安だ。

「宝田、やってくれるの?」
「宝田くん……ありがとう」

 奏先輩と中谷が嬉しそうなので、もうそれで良しとしよう。

「宝田……すまない」

 頭を下げる押上に、気にすんなと手を挙げて、それからようやく俺は、隣に立つ悠臣へ目を向けた。
 何とも言えない、安堵したような顔をしていて、その表情を見られただけで、もういいなんてことを思った。