好きって言ったらキスしてくれる?

 スラリと長い手足。細い腰。身長が高いわりに華奢なので、短いスカートも丈の短いトップスも、おかしなことにならない。むしろ似合っている。
 極めつけはルックスで、奏先輩が言うにはメイクなんてほとんどしていないのに、肩より少し長いくらいの茶髪のウィッグを被っただけで、綺麗な女の子に見える。
 もともと睫毛の長い蠱惑的な目をしてるし、よく整った顔なんだから当たり前だ。

「どう……かな?」
「かっ……」

 はにかんだように笑いかけられて、俺は思わず反射的に「可愛い!」と叫んでしまいそうになった。
 それは俺の理念に反するし、なんだか悔しいので、かろうじて呑み込む。

「か……?」

(首を傾げて俺の顔を覗きこむと、髪がサラサラ肩から滑り落ちて、パチパチ瞳を瞬く表情がもっと可愛いだろ、バカ!)

 心の中の絶叫の最後部分だけを、俺は声に出して言った。

「……バカ」
「バカぁ?」

 少し怒ったように、俺に迫る顔は、いつもの悠臣だ。
 それはわかっているのに、格好が違うので余計にどうしていいかわからなくて、踵を返して逃げ出す。

「待て! 宝田!」

 ミニスカートを翻して俺を追いかける悠臣を、みんな笑って見ていたが、その時、悠臣が着替えて帰って来た時以上のどよめきが、背後で起こった。

(なんだ?)

 走るのを止めてふり返ってみると、中谷が着替えを終えて帰って来たのだった。

「あー……」

 悠臣とお揃いのミニスカートを穿いて、奏先輩によって頭に小さなリボンまで飾られた中谷は、そりゃ可愛い。
 色白で目がぱっちりしていて、そんじょそこらの女の子より元から可憐なんだから、男連中が放っとくわけない。

「中谷すげえ!」
「可愛い! ちょー可愛い!」
「俺、中谷とだったらつき合えるわー」
「俺も!」

 口々に褒められて、困ったように笑っている中谷の姿が、人だかりの中にあっと言う間に見えなくなる。

「つかまえた」

 いつの間にか背後に立っていた、やたらと背の高い美人のような悠臣に、手首を掴まれたが、俺は何も言わなかった。
 それくらい集中して中谷の方を見ていたので、みんなに囲まれた中谷に背を向けて、押上がそっといなくなろうとしていることに気がついてしまった。

「あ……」

 俺が気づくくらいなんだから、中谷は当然気がついていて、奴を呼び止めようとする。

「押上くん?」

 押上は返事もせず、さっさとその場からいなくなる。

「待って!」

 人垣をかきわけて、男連中の包囲網から抜け出す中谷に、一瞥もくれず、押上は走り出した。

(おいおいおいおい)

 慌てて追いかける中谷が、押上に追いつけるわけない。
 思わず俺も、二人を追って走り出す。
 無言で、なぜだか悠臣もついてくる。
 校庭を抜けて、校舎の方まで走った。