体育祭も三日後に迫った放課後。応援団の練習は、寮の食堂から校庭へと場所を移した。
各寮の応援合戦の内容は、当日まで絶対秘密の極秘事項なので、練習は各寮時間をずらして、かち合わないようにして行われる。
楓寮は、今日は最後の夕方遅い時間帯だった。
「すみません! 遅くなりました!」
バイトを早めに切り上げた悠臣も、今日は珍しく参加している。
全員揃っているということで、ダンスを合わせた後、当日の衣装合わせも予定されていた。
太鼓の音に合わせて大きな掛け声を出しながら、いくつか陣を組んだ後、激しいダンスが始まる。
練習ではいつも居残りして、半べそになりながら踊っていた中谷が、みんなに遅れずステップを踏んでいて、俺は感心した。
(へえ……)
全体練習後の個人練習に、俺も少しつきあったが、それ以上につきあったと思われるのは、おそらく中谷の同室の押上だ。
その証拠に、奴はあくまで衣装係で、応援団ではないのに、いつも中谷の練習が終わるまで食堂に居たし、なんなら今も、応援団の連中と遜色ないほど正確に、足でリズムを取っている。
押上が見守る中、中谷は間違いもせず、ダンスを踊り切った。
「————!」
中谷が嬉しそうに振り返った先では、押上が目線を下げながらも小さくガッツポーズしていて、それを見た中谷がとびきり嬉しそうに笑うので、俺まで嬉しくなる。
(よかったな!)
あまりに二人ばかり見ていて、中谷の後ろにいる悠臣が俺に向かってブンブン手を振っていることにようやく気がついた。
「俺のダンス、どうだった? 宝田!」
こちらは臆面もなく大きな声で叫ぶ。
俺は少し顔をしかめながら小さな声で答えた。
「いいんじゃね」
「えー? 何だって?」
聞こえないとばかりに、悠臣が耳に手を当てて聞き返すので、俺は腹から声を出す。
「完璧だよ! バカ!」
「……なんでバカなの?」
納得いかないとばかりに首を捻っている悠臣を、みんな笑って見ているが、俺の言い分も聞いてほしい。
俺だって決してダンスが得意なわけじゃない。
ただ、不本意ながら中学時代の経験で、応援団のダンスだったらこういう感じかなという動きが予測できるし、体を動かすことは嫌いじゃないので、毎日律義に練習に参加し、その日教えられたことを悠臣にも教えられるように、極めて真剣に取り組んだ。
その結果、かなり器用に振りをマスターして奏先輩にも褒められていたのだが、そんな俺の小さな優越感を消し炭にしてしまうくらい、俺から振りを教えてもらう悠臣の覚えは、比較にならないほど早かった。
一度でほぼ覚えてしまうし、なんなら見本として踊っている最中に、その後の振りを予想して、途中から一緒に踊ってしまった日もあった。
(頭がいいのか、運動神経がずば抜けてるのか、要領がいいのか……まあ、全部か)
本当にすごい奴だとは思うが、それはそれとして、少し悔しい。
ふんっと顔を背けた俺を、離れた場所から悠臣が懸命に呼ぶ。
「え、宝田? 宝田!?」
その騒ぎをしーっと制して、奏先輩がみんなに向き合った。
「それじゃあ当日の衣装を渡すんで、みんな一回着てみて、不都合があったら押上に言って」
いつの間にか奏先輩の隣に立っていた押上が、応援団員の一人一人に衣装を手渡していく。
「あれ全部一人で作ったのか? すげー」
思わず呟いた俺に、中谷が嬉しそうに説明する。
「とっても器用だよね。普通の団員のは、古着の学ランをベースにリメイクしたんだけど、チアガールの衣装は、本当に型紙から押上くんが作ったんだよ」
それをそんなに自慢げに話すということは、やっぱり二人は不仲などではなく、うまくやっているらしい。
「中谷と押上ってさ……」
本人に確認しようかと思ったが、その前に中谷が奏先輩に呼ばれて行ってしまった。
青と白が綺麗なチアガールの衣装を受け取って、着替えのために体育館の更衣室へ駆けていく。
そういえばいつの間にか、悠臣の姿もない。
しばらくして、着替えを手伝うと付き添った奏先輩に伴われ、中谷より一足先に戻った悠臣を見て、みんなは騒然となった。
「え? キタ!? 本当に?」
「やべー! 想像以上にやべえって‼」
「———!」
俺もぽかんと開いた口が塞がらなかった。
各寮の応援合戦の内容は、当日まで絶対秘密の極秘事項なので、練習は各寮時間をずらして、かち合わないようにして行われる。
楓寮は、今日は最後の夕方遅い時間帯だった。
「すみません! 遅くなりました!」
バイトを早めに切り上げた悠臣も、今日は珍しく参加している。
全員揃っているということで、ダンスを合わせた後、当日の衣装合わせも予定されていた。
太鼓の音に合わせて大きな掛け声を出しながら、いくつか陣を組んだ後、激しいダンスが始まる。
練習ではいつも居残りして、半べそになりながら踊っていた中谷が、みんなに遅れずステップを踏んでいて、俺は感心した。
(へえ……)
全体練習後の個人練習に、俺も少しつきあったが、それ以上につきあったと思われるのは、おそらく中谷の同室の押上だ。
その証拠に、奴はあくまで衣装係で、応援団ではないのに、いつも中谷の練習が終わるまで食堂に居たし、なんなら今も、応援団の連中と遜色ないほど正確に、足でリズムを取っている。
押上が見守る中、中谷は間違いもせず、ダンスを踊り切った。
「————!」
中谷が嬉しそうに振り返った先では、押上が目線を下げながらも小さくガッツポーズしていて、それを見た中谷がとびきり嬉しそうに笑うので、俺まで嬉しくなる。
(よかったな!)
あまりに二人ばかり見ていて、中谷の後ろにいる悠臣が俺に向かってブンブン手を振っていることにようやく気がついた。
「俺のダンス、どうだった? 宝田!」
こちらは臆面もなく大きな声で叫ぶ。
俺は少し顔をしかめながら小さな声で答えた。
「いいんじゃね」
「えー? 何だって?」
聞こえないとばかりに、悠臣が耳に手を当てて聞き返すので、俺は腹から声を出す。
「完璧だよ! バカ!」
「……なんでバカなの?」
納得いかないとばかりに首を捻っている悠臣を、みんな笑って見ているが、俺の言い分も聞いてほしい。
俺だって決してダンスが得意なわけじゃない。
ただ、不本意ながら中学時代の経験で、応援団のダンスだったらこういう感じかなという動きが予測できるし、体を動かすことは嫌いじゃないので、毎日律義に練習に参加し、その日教えられたことを悠臣にも教えられるように、極めて真剣に取り組んだ。
その結果、かなり器用に振りをマスターして奏先輩にも褒められていたのだが、そんな俺の小さな優越感を消し炭にしてしまうくらい、俺から振りを教えてもらう悠臣の覚えは、比較にならないほど早かった。
一度でほぼ覚えてしまうし、なんなら見本として踊っている最中に、その後の振りを予想して、途中から一緒に踊ってしまった日もあった。
(頭がいいのか、運動神経がずば抜けてるのか、要領がいいのか……まあ、全部か)
本当にすごい奴だとは思うが、それはそれとして、少し悔しい。
ふんっと顔を背けた俺を、離れた場所から悠臣が懸命に呼ぶ。
「え、宝田? 宝田!?」
その騒ぎをしーっと制して、奏先輩がみんなに向き合った。
「それじゃあ当日の衣装を渡すんで、みんな一回着てみて、不都合があったら押上に言って」
いつの間にか奏先輩の隣に立っていた押上が、応援団員の一人一人に衣装を手渡していく。
「あれ全部一人で作ったのか? すげー」
思わず呟いた俺に、中谷が嬉しそうに説明する。
「とっても器用だよね。普通の団員のは、古着の学ランをベースにリメイクしたんだけど、チアガールの衣装は、本当に型紙から押上くんが作ったんだよ」
それをそんなに自慢げに話すということは、やっぱり二人は不仲などではなく、うまくやっているらしい。
「中谷と押上ってさ……」
本人に確認しようかと思ったが、その前に中谷が奏先輩に呼ばれて行ってしまった。
青と白が綺麗なチアガールの衣装を受け取って、着替えのために体育館の更衣室へ駆けていく。
そういえばいつの間にか、悠臣の姿もない。
しばらくして、着替えを手伝うと付き添った奏先輩に伴われ、中谷より一足先に戻った悠臣を見て、みんなは騒然となった。
「え? キタ!? 本当に?」
「やべー! 想像以上にやべえって‼」
「———!」
俺もぽかんと開いた口が塞がらなかった。



