好きって言ったらキスしてくれる?

 寮での応援団選出に遅れて、各クラスでも、体育祭の当日の係と、出場種目を決めるLHRが行われた。
 係に関しては、応援団になった奴以外でじゃんけんして割り振るので、悠臣も、悠臣の代わりに練習に参加するのならついでだから応援団に入れと強制加入させられた俺も、ひとまず免除になる。

(あとは出場種目か……)

 玉入れや大玉転がしといった全員参加の競技以外に、一人二種目以上は参加しろと寮長から達しがあった楓寮は、みんな無難そうな種目へ積極的に参加していく。

『なるべく楓寮の奴を出場させろ』と、面と向かって指示はされなかったが、そうしろという暗黙の了解として寮長の話を受け取った俺と悠臣は、ひとまず全ての種目を、立候補からのじゃんけん制とした。
 他の寮からの反発をなるべく抑え、公平だったと思わせるには、やはり最後には運という結論が一番丸く落ち着く。

(だから、負けんじゃねえぞ、お前ら! 俺はじゃんけん最弱だけど!)

 俺の無言の応援が利いていたのかはわからないが、楓寮の連中は結構うまいこと出場権を得たようだった。

(よしよし……あ?)

 クラス委員としての役目をまっとう出来そうなことに喜んでいた俺は、自分自身の出場種目について、考えていなかったことに気がつく。

(どうする?)

 一つは、出場人数に制限のない借り物競争と決めているが、あと一つはどうしたものかと考えた。

(100M走、は誰も希望しなかったからじゃんけんしないで済みそうだけど、こんなのガチの陸上部が競うもんだよな……)

 悩む俺の耳元に顔を寄せ、悠臣が囁く。

「宝田、足早いんだから、100M走ればいいじゃん」
「……え?」

 その距離感にも正直ドキリとしたが、言われた内容にも驚いた。
 確かに俺は、走るのはまあまあ得意だが、それをこいつに話したことがあっただろうか。
 しかも悠臣の口ぶりは、まるでそれを見たことあるかのようで、ますます疑問に思う。

「俺が本気で走ってるところ……見たことないだろ? それと、近すぎるから離れろ」

 てっきり、「そうだけど」といつものように余裕の笑顔が返ってくるとばかり思っていたのに、真顔で返された。

「あるよ」
「は?」

 思わず悠臣の顔を見つめてしまい、間近で向き合うことになる。
 悠臣は少し悪戯めいた笑顔になった。

「初めて会った日。俺と目があって転んで、それから急いで走り去っただろ? いやぁ、あれは速かっ……」
「————!」

 皆まで言わせず、俺は悠臣に飛びかかった。

「黙れ! バカ! なんてこと言い出すんだ!」

 珍しく目の前に下りてきている首に腕を回して、ヘッドロックの格好へ持ち込もうとする俺の腕を、降参とばかりに悠臣がパンパン叩く。

「え? だって、ほんとのことだし……」

 そのくせ言っていることは、まったく反省している様子がないので、俺は絶対に放すもんかと腕に力を込める。

「こんなところで口にするな! て言うか忘れろ! 記憶から消去しろ」
「えー、それは嫌だな」

 軽く首を絞められながらも、悠臣は「ははは」と声を上げて笑っているので、他の連中からクレームが入る。

「クラス委員―、じゃれてないでさっさと残りの種目決めてくれー」
「じ、じゃれ……」

 そういう表現をされたことに焦り、俺は悠臣を捕まえていた腕を解こうとするのに、逆に悠臣が俺の腕を掴んで、解かせてくれない。

「ごめん、ごめん、じゃあ次、400M出たい奴―」

 俺に合わせて身を屈めた態勢のまま、悠臣が再び会を進行し始めるので、焦る。

「おい! 悠臣!」

 パラパラと手を挙げた連中にじゃんけんするように指示すると、悠臣は俺に向き直った。

「100Mのとこ、宝田の名前書いていい?」

 これは、うんと言わないと放してもらえないヤツだと察し、俺は仕方なく返事する。

「っ……いいよっ!」

 すっと俺の腕を押さえていた手を放し、ご機嫌で黒板へ向かう悠臣の意図が、まったく読めない。

「なんなんだよ、もうっ!」
「俺は800M~」

 希望者が一人しかいなかった種目に、ついでに自分の名前も書き加えながら、いつものように笑っている悠臣が、心臓が爆発しそうなほど焦っている俺とは違い、至って平常心だということは見て取れた。