好きって言ったらキスしてくれる?

 話し合いが終わって、ついでに夕食も済ませ、寮の自室へ戻ると、俺は悠臣と向き合った。

「お前……どういうつもりなんだよ」
「何が?」

 悠臣はまったくわからないというふうに、きょとんとしている。
 当然だろう。悠臣がチアガールになったことが気にかかっている奴なんて、あの空間の中でおそらく俺だけで、それで夕飯の味もよくわからなかったなんて、本人に言ってもたぶん理解してもらえない。

「チアガール……」

 微妙にトラウマを刺激するそのワードを嫌々ながら口にすると、悠臣がぱあっと笑顔になった。

「ああ、それ……背が高いのはもうどうしようもないから、奏先輩にメイクを頑張ってもらって、後は愛嬌かな……とにかく頑張るよ」

「愛嬌なら百点満点だな!」と後押しするような事実は言葉にできず、俺は呻くように答えた。

「そうか」

 聞いたところで、すでに決まったことはもうどうしようもなく、それについて深く語ることもしたくないくせに、俺はいったい何がしたいのだろうと、自分でもよくわからない。
 ただ、誰もする人がいないのなら自分が引き受けようというのは、確かに悠臣の良いところだし、俺がそれに口出しするのはおかしいともわかっている。

「……頑張れよ」

 仕方なく言った言葉に、悠臣がにっこり笑う。

「ああ」

 甘い光を湛えていた茶色い瞳が、キラリと煌めいた。

「でも、ちょっと困ったことがあって……」

 予想外の発言に、俺は首を傾げる。

「なんだ?」

 悠臣は、小窓に並んだ小さなカップをチラリと見た。
 ズラリと並んだプリンの空きカップに、俺たちは本当に少し水を入れて、花の球根を置いてみている。
 まだ芽が出てはいないが、うまく育ってくれたらいいなくらいの気持ちで。

「明日からまた、『バイト』が始まる予定なんだ」
「あ……」

 悠臣が『バイト』と偽って、女の人の護衛兼付き添いのボランティアをしていることは、俺たちだけの秘密だ。
 プリンの人の後も、休みなく放課後は出かけていて、ここ数日はなかったようだが、またそれが明日から始まるらしい。

「そうか……気を付けてな」
「ああ」

 悠臣は頷いて、それからポンと俺の肩に両手を乗せた。

「というわけだから、チアガールの練習を代行よろしく」
「は?」

 思いがけない発言に、ぽかんと口が開く俺の表情を見て、悠臣がニヤッと笑う。

「話し合いとか賛否を決めることとか、俺の代理として宝田が決めちゃっていいから。振り付けが始まったら、覚えてきて俺に教えて。よろしく」
「はあああああああ⁉」

 それじゃ俺がチアガールになったのと変わらないじゃないかと、最大の不満を込めた叫びにも、悠臣の笑顔が崩れることはなかった。