好きって言ったらキスしてくれる?

(び、びっくりした……焦ったぁ……)

 寮の玄関へ駆け込むと、まだバクバクと跳ねる心臓を落ち着けるように、俺は胸を手で押さえた。
 新入生の案内のために玄関で待っていたらしい上級生っぽい人が、訝(いぶか)しむような目を向けてくる。

「きみ、大丈夫? えっと……」

 新入生の名簿と思われる紙へ目を落とすので、俺は急いで名を名乗った。

「宝田です」
「宝田君……」

 名簿の中から俺の名前を見つけたらしいその人が、人の良さそうな笑顔で訊(き)く。

「名前はなんて読むの?」
「宝田でいいです」

 間髪入れずに答えた。
 その勢いに少し驚いたふうだった上級生は、戸惑いながらも俺の要求を呑(の)んでくれる。

「じゃあ宝田君、俺は寮長の濱屋(はまや)。これからよろしくね」
「はい、よろしくお願いします」

 態度だけは失礼にならないようしっかりと頭を下げて、俺は寮長の後を追って歩き出した。

「ここが食堂、こっちが洗面所、あっちにお風呂があるから……」

 寮の中を練(ね)り歩きながら、寮長が簡単に説明をしてくれる。

「はいっ! ありがとうございます!」

 最初の決意に違(たが)わぬよう、はっきりきっぱり男らしくを心がけて元気に返事する俺を、寮長は最終的に、三階の一室へ連れて行ってくれた。

「ここが宝田君の部屋。二人部屋で、同室も同じ一年の子だよ。俺の部屋は三つ隣だから、わからないことがあったらいつでも訪(たず)ねてきて。これが寮則ね」

 寮長から手渡された冊子を握りしめ、俺は深々と頭を下げた。

「はいっ! ありがとうございましたっ!」

 寮長がかすかに苦笑めいた笑みを浮かべて去っていくが、気にしない。
 堂々と男らしくという目標を、第一段階は押し通すことに成功し、俺はすっかり満足していた。

(よし、これならなんとかなりそう)

 部屋に入って中を確認する。
 左右の壁際にベッドが二つあり、そのヘッド部分の裏側が簡易な机になっている。
 向き合うように椅子が一脚ずつ。縦長いロッカーがあって、ベッドの下にも引き出し収納。
 決して広くはないが、過不足なく機能的な造りだ。

 同室の人間は、すでに到着して荷解きまで済んでいるらしく、片方のベッド脇の机の上に本が並べられている。
 空いている方のベッドの横に、俺が宅配便で送った段ボールが置いてあったので、そちらが俺の陣地ということでいいのだろう。

 段ボールを開けて、中身を出しながら、俺は隣のベッドをちらりと見た。

(同室……どんな奴だろう……)

 薄青色で統一された寝具は、すっきりした印象を与える。
 本も綺麗に並んでいるし、几帳面で真面目な奴かもしれない。

(仲良くできるといいな)

 そう思った時、ノックもなく扉が開き、誰かが部屋の中へ入ってきた。

「え……」

 俺とは違い、天井に近い位置にある長身なその人物の顔を、驚きの思いで見上げる。

「あ……」

 そいつも、驚いたように目を見開いて、俺の顔を見降ろしていた。
 それは——ついさっき桜の木の下で、白昼堂々ラブシーンを繰り広げていた、明るい髪色の背の高いイケメンだった。