好きって言ったらキスしてくれる?

(どうにも調子がおかしい……)

 放課後。クラス委員の集まりで小会議室にいる俺は、長机に抱きつくようにしてずっと突っ伏している。
 集まりの内容は、来月に控えた体育祭の出場種目と役員決めについてで、クラス委員会委員長の桑原先輩が、さっきから滔々と注意事項を述べているが、正直あまり頭に入ってこない。

「おい宝田! ちゃんと聞いてるのか⁉」

 さすがに見咎められたが、「はーい聞いてます」と答える前に、先を越された。

「聞いてますよ」

 隣に座る悠臣が、あっさりさっぱりと言ってしまい、俺の心臓はざわざわと騒ぎ出す。

「キタが答えんな!」という桑原先輩の叫びに重なり、「さすが同室! なんでもわかるぅ」と奏先輩が笑って、ますます落ち着かなくなった。

(くっ……)

 この間、悠臣にバイトの内容を教えてもらった夜から、ずっとこうだ。
 悠臣の言うことややることに、妙にそわそわする。
 だったら一緒にいなければいいじゃないかと思うが、姿が見えないのも隣にいないのも嫌で、こうしてサボりもせずに、委員会も一緒に出席している。

(なんなんだ)

 奏先輩に仲が良いことを茶化されて、嫌な感じじゃなくて、嬉しい感じなのが自分でもわかるので、余計にわけがわからない。

(くそっ、さっさと終われ)

 委員会が早く終わることを願ったが、そうすると寮へ帰って、結局悠臣と一緒なことに気づいた。

(くっ……)

 絶対に、嫌だという感情ではないのだが、息が苦しい。
 机に抱きついてもんどり打っている俺を、前の席に座る中谷がそっとふり返る。

「宝田くん、大丈夫?」
「大丈夫……」

 死にそうな声で答えた時、ようやく桑原先輩が今日の委員会のまとめに入った。

「出場種目と当日の役割分担については、各クラスで寮ごとに偏りがないよう決めてくれ。応援団は寮で相談するだろうが、前準備や練習があるからなるべく早く決まるように、クラス委員が取り仕切ること、いいな」
「はーい」

 あちこちで上がる返事を合図に、委員会はお開きになった。
 みんなが帰り始める騒がしさに紛れて、中谷の隣に座っていた、奴と一緒にA組のクラス委員をしている奴の、うらやましそうな声が聞こえる。

「楓寮はいいな、チアガール二人、確定しているようなもので」

(————!)

 チアガールという言葉に、俺は一瞬過敏に反応してしまいそうになったが、落ち着けと自分を戒める。
 中谷に話しかけた眼鏡の奴が、言っているのは絶対に中谷と奏先輩のことだ。
 その証拠に、二人のことをちらちらと交互に見ている。

「柊寮はどうすんだろ……あーあ……」

 がっくりと肩を落として帰っていく眼鏡に、少し困ったように笑いながら手を振っている中谷の机を、ダンと大きな音をさせて叩いた奴がいた。

「女の格好して、男どもにちやほやされて、嬉しいか?」

 中谷と同室の押上だった。
 奴に少し気後れしているふうの中谷は、びくっと肩を跳ねさせたまま固まってしまっている。

「おいっ!」

 代わりに言い返してやろうと、俺は席を立ちかけたが、それより先に立ち上がっていた悠臣が、さっと中谷と押上の間に割って入った。

「ちやほやしたくもなるよな、中谷、絶対可愛いよ」

 にこにこと中谷に笑いかけて、その笑顔をそのまま押上に向ける。

「押上もそう思うだろ?」

 俺は思わず息を呑んだ。
 押上は楓寮の一年では一番大柄で、迫力があって声も大きいので、みんな一歩引いているところがある。
 でも身長だけなら、悠臣とは変わらない。しかも悠臣は、押上にだって他の奴らに接するのと同じように、何も物怖じせずに話す。
 目の前に立つ悠臣に一瞬怯んだふうだった押上は、バッと顔を逸らして、さっさとその場から歩き去った。

「思うか!」

 捨てゼリフを真剣に受け取り、悠臣は顎に指を当てる。

「そうかな……可愛いと思うけどな」

 俺の前に座る中谷の背中が、ブルブル震えていることに気がついた。
 後ろから見てもはっきりとわかるくらい、耳が赤くなっている。

「ありがと……キタくん」

 小さな声に、悠臣はにっこりと笑う。

「どういたしまして」

 その一部始終を、息を呑んで見ていた俺に気がつくと、ニヤッと少し違う笑い方をした。

「————!」

 どくんと心臓が大きく跳ねて、顔に血液が集まり始めているように感じるのは、前に座る中谷に、つい、つられたんだと思う、絶対に。