(くっそ、イライラする)
寮へ帰って中谷と別れ、自室へ戻っても、俺の胸のモヤモヤは一向に晴れなかった。
もはや何にイラついているのか、元々の原因もよくわからない。
ただ、たぶん悠臣に関してだということは自分でも察しがついていたので、なるべく考えないようにしようとした。しかし——。
(出来るかーい!)
壁に背をつけて自分のベッドの上で胡坐をかいていた俺は、向かいに見える悠臣のベッドへ向かって、抱きしめていたクッションを投げつける。
(否が応でも目に入る! そもそも同室なんだから、考えないようにするってのが無理!)
ゴロンと横向きにベッドに倒れた。
(あー、しくじった……最初に誰かに訊いときゃよかった……)
悠臣の『バイト』がこんなに胸に引っ掛かるとわかっていたら、本人は無理としても、誰かにその内容を訊いておけばよかったのだ。
悠臣と同じ中学出身の奴らはもちろん、高校で知り合った奴らでさえ、俺以外はみんな知っているふうなのだから。だが今さら後悔しても、もう遅い。
(これまで散々、俺も知ってる体で話を合わせてきたからな……)
実は知らないので、その内容を教えてほしいなんて、クラスメイトにも中谷にも言いづらい。
(ちくしょ)
ゴロゴロと転がりまくりながら、ふと考えた。
(そうだ! 奏先輩なら、どうかな?)
悠臣のバイトについて、うっすらと話したことはあるが、俺がその内容を知っているか知らないか、判断できるほどは話していない。
しかも同寮の先輩なので、その気になれば今すぐ会いに行ける。
(よし、そうしよう!)
いつまでもグダグダ悩んでいるのは性に合わず、いっそ思い切って訊いてしまおうと、勢い込んで起き上がったのに、すぐに出鼻を挫かれた。
ガチャッとドアを開けて、悠臣が部屋へ帰ってきた。
「あ……」
ドアへ向かって駆け出す格好だった俺は、悠臣の胸に飛び込んでしまいそうになり、慌てて足を止める。
まさかそんな近くに俺がいるとは思っていなかったらしく、驚いた顔で立ち止まった悠臣は、俺の顔と自分のベッドに投げつけられた俺のクッションをチラリと見て、ニヤッと笑った。
「何? 元気だね」
悠臣を押し退けてまで、「俺は今急いでるんだ」と部屋を出ていくことは出来ず、バツの悪い思いでクッションを回収に、悠臣のベッドへ行く。
「お帰り」
街中で見かけた私服ではなく、わざわざもう一度制服に着替えてから帰って来たんだ、などと思いながら、背中を向けたままとりあえず言うと、背後から伸びてきた手が、いつもの小箱を俺の顔の前に出した。
「ただいま。はい、お土産」
「————!」
それは、バイトの依頼主から悠臣へのプレゼント。
ということは、今日見かけたあの女の人から悠臣への贈り物だと思考の回線が繋がると、カッと頭に血が上った。
「いらない」
手を押し返すと、ぐっと手に押し付けられる。
「貰って」
「いらないってば!」
押し退けようとしても、小箱もそれを持つ悠臣の手も、ビクともしない。
いつの間にか、背後に立つ悠臣の腕の中に囲われるような格好になっていて、どこへも逃げようがなかった。
仕方なく、腕の中で体の向きを反転させる。
近すぎるくらい目の前に、悠臣の胸があるけれど仕方がない。
俺は眼差しを強くして、キッと悠臣の顔を見上げた。
「もう貰ってくるなって、言っただろ……今日一緒だったあの女の人から、いつも貰ってたのか?」
悠臣が一瞬、息を止めたのがわかった。
綺麗な目でじっと俺の顔を見つめて、少し目を眇めた。
「うん」
「————!」
目を逸らしたら負けという気持ちで、俺は悠臣を睨み上げる。
「だったら……」
もういらないと言いかけた声に、悠臣の声が重なる。
「でも今日のこれは、俺が自分で買ってきた。だから貰って」
「え……」
思わず、口がぽかんと開いた。
「今日で一区切りがついたんだ。見てただろ?」
「あ……」
やっぱりあれは悠臣だったんだ、などと当たり前のことをぼんやり考える俺から、一瞬も目を離さず、いつものように笑いもせず、悠臣は真顔で話す。
「俺のバイトについて話すから、これ食べながら聞いてほしい」
そう言って改めて目の前にさし出された小箱を、俺は受け取るしかなかった。
「……わかった」
俺の返事を聞いてようやく悠臣の顔に、いつもの微笑が戻った。
寮へ帰って中谷と別れ、自室へ戻っても、俺の胸のモヤモヤは一向に晴れなかった。
もはや何にイラついているのか、元々の原因もよくわからない。
ただ、たぶん悠臣に関してだということは自分でも察しがついていたので、なるべく考えないようにしようとした。しかし——。
(出来るかーい!)
壁に背をつけて自分のベッドの上で胡坐をかいていた俺は、向かいに見える悠臣のベッドへ向かって、抱きしめていたクッションを投げつける。
(否が応でも目に入る! そもそも同室なんだから、考えないようにするってのが無理!)
ゴロンと横向きにベッドに倒れた。
(あー、しくじった……最初に誰かに訊いときゃよかった……)
悠臣の『バイト』がこんなに胸に引っ掛かるとわかっていたら、本人は無理としても、誰かにその内容を訊いておけばよかったのだ。
悠臣と同じ中学出身の奴らはもちろん、高校で知り合った奴らでさえ、俺以外はみんな知っているふうなのだから。だが今さら後悔しても、もう遅い。
(これまで散々、俺も知ってる体で話を合わせてきたからな……)
実は知らないので、その内容を教えてほしいなんて、クラスメイトにも中谷にも言いづらい。
(ちくしょ)
ゴロゴロと転がりまくりながら、ふと考えた。
(そうだ! 奏先輩なら、どうかな?)
悠臣のバイトについて、うっすらと話したことはあるが、俺がその内容を知っているか知らないか、判断できるほどは話していない。
しかも同寮の先輩なので、その気になれば今すぐ会いに行ける。
(よし、そうしよう!)
いつまでもグダグダ悩んでいるのは性に合わず、いっそ思い切って訊いてしまおうと、勢い込んで起き上がったのに、すぐに出鼻を挫かれた。
ガチャッとドアを開けて、悠臣が部屋へ帰ってきた。
「あ……」
ドアへ向かって駆け出す格好だった俺は、悠臣の胸に飛び込んでしまいそうになり、慌てて足を止める。
まさかそんな近くに俺がいるとは思っていなかったらしく、驚いた顔で立ち止まった悠臣は、俺の顔と自分のベッドに投げつけられた俺のクッションをチラリと見て、ニヤッと笑った。
「何? 元気だね」
悠臣を押し退けてまで、「俺は今急いでるんだ」と部屋を出ていくことは出来ず、バツの悪い思いでクッションを回収に、悠臣のベッドへ行く。
「お帰り」
街中で見かけた私服ではなく、わざわざもう一度制服に着替えてから帰って来たんだ、などと思いながら、背中を向けたままとりあえず言うと、背後から伸びてきた手が、いつもの小箱を俺の顔の前に出した。
「ただいま。はい、お土産」
「————!」
それは、バイトの依頼主から悠臣へのプレゼント。
ということは、今日見かけたあの女の人から悠臣への贈り物だと思考の回線が繋がると、カッと頭に血が上った。
「いらない」
手を押し返すと、ぐっと手に押し付けられる。
「貰って」
「いらないってば!」
押し退けようとしても、小箱もそれを持つ悠臣の手も、ビクともしない。
いつの間にか、背後に立つ悠臣の腕の中に囲われるような格好になっていて、どこへも逃げようがなかった。
仕方なく、腕の中で体の向きを反転させる。
近すぎるくらい目の前に、悠臣の胸があるけれど仕方がない。
俺は眼差しを強くして、キッと悠臣の顔を見上げた。
「もう貰ってくるなって、言っただろ……今日一緒だったあの女の人から、いつも貰ってたのか?」
悠臣が一瞬、息を止めたのがわかった。
綺麗な目でじっと俺の顔を見つめて、少し目を眇めた。
「うん」
「————!」
目を逸らしたら負けという気持ちで、俺は悠臣を睨み上げる。
「だったら……」
もういらないと言いかけた声に、悠臣の声が重なる。
「でも今日のこれは、俺が自分で買ってきた。だから貰って」
「え……」
思わず、口がぽかんと開いた。
「今日で一区切りがついたんだ。見てただろ?」
「あ……」
やっぱりあれは悠臣だったんだ、などと当たり前のことをぼんやり考える俺から、一瞬も目を離さず、いつものように笑いもせず、悠臣は真顔で話す。
「俺のバイトについて話すから、これ食べながら聞いてほしい」
そう言って改めて目の前にさし出された小箱を、俺は受け取るしかなかった。
「……わかった」
俺の返事を聞いてようやく悠臣の顔に、いつもの微笑が戻った。



