好きって言ったらキスしてくれる?

 中谷が行きたいと言った店は、夕方の時間もかなり混んでいた。
 圧倒的に女性客が多いが、彼女につきあって来ましたというふうの男もいる。
 その中にあって、制服姿の男子高校生二人は、かなり目立っていた。

(せめて着替えてくるべきだったか? ……あまり意味ないか)

 ちらちらと見られるのはともかく、「可愛い」と囁かれるのは少しトラウマを刺激する。
 だが今日に限っては、それは俺を指しているのではないとわかるので、まだ我慢できる。
 メニューを見ながらどれにしようか真剣に悩んでいる中谷は、サラサラの髪に大きな目で、確かに可愛い。
 黒ぶち眼鏡と長めの前髪で、顔をほぼ隠している俺の方が「可愛い」なんて思う奴がいたら、正気を疑うレベルだ。

「どれにしようかなー……マスカット、マンゴー……チョコもいいなぁ……」
「俺、いちご」
「うわぁ、いちごもいいよねー」

 散々悩んだ末に、中谷はマスカットを注文した。
 俺は初志貫徹でいちご。
 パフェが来るまでの間、なんてことはない会話をする。

「宝田くん、部活は入んないの?」
「今のところ、考えてないな」
「僕も……高校ってわりと宿題多いよね」
「予習とかな。やること多い」
「うん」

 窓際の席に座っていたので、話しながらなんとなく窓の外を眺めていて、とある人影に気づいてドキッとした。

(ん?)

 前方から歩いてくる女性連れの長身イケメンが、悠臣に見えるのだが他人の空似だろうか。
 制服じゃないし、いつもより髪型も決まってて、もっと年上の人だろと言われれば、そうも見えるのだが。

 思わず食い入るように見てしまっていたからだろうか、窓越しにも関わらず、その人が俺の方を見た。

(悠臣!)

 同室で朝晩見ている顔に間違いなく、俺は口を開けた。

「あ……」

 窓越しで声が聞こえるわけではないのだが、なんと声をかけたらいいのか、躊躇する。
 悠臣の隣には、寄り添うように綺麗な女性が歩いている。なんならしっかりと悠臣の腕に腕を絡めている。

 気まずくて、どんな顔をすればいいのかわからなかったが、そんなこと気にする必要はなかった。
 てっきり悠臣の方も、俺の顔を見て気まずそうに苦笑いすると思っていたのに、なんのリアクションもなく、あっさりと目を逸らされた。

(え?)

 それはもう、あっさりと。まるで俺がここに存在していないか、全然知らない奴でもあるかのように。

「…………」

 呆然と、窓の外を歩き去る人物を見ている俺に気がついた中谷が、少し弾んだ声を出す。

「あっ、キタくんだ! うわぁ、私服姿も恰好いいー」

(中谷から見ても、あれは悠臣に見えるのか、そうか)と、俺はおかしなくらい冷静にそんなことを考えていた。
 その実、悠臣に無視(?)されたことに動揺しまくっており、その後食べたパフェがどんな味だったかも、よく覚えていなかった。