好きって言ったらキスしてくれる?

「なあ悠臣……これ、こんなに集めてどうするんだ?」

 『楓寮』308号室の、掃き出し窓の左右にある光取り用の出窓には、小さなプラスチック製の器が、二十近くも並べてある。
 それは、放課後バイトへ行った悠臣が、毎回俺にお土産として持って帰ってくるプリンの器なのだが、綺麗に洗って並べているのは悠臣なので、どういうつもりなのか聞いてみた。

「どうって……特に意味はないけど」
「ないんかい!」

 思わずつっこんでしまう俺に、「ははは」と笑ってから、悠臣は顎に手を当てる。

「だけどまあ……せっかくこんなにあるんだから、花でも育てたらどうかな? ほら、水栽培で」
「花かぁ……」

 つられて考え込みそうになり、俺はハッと首を横に振った。

「じゃなくて! もう持って帰ってこなくていいから!」
「どうして?」

 いかにも疑問というふうに首を傾げられて、なんと説明したらわかってもらえるのかと、俺は思案する。

「だって……毎回毎回悪いだろ?」
「ああ……俺がお金を出して買ってるわけじゃなくて、貰い物だから、気にしなくていいよ……俺は甘いもの苦手だから、宝田が美味そうに食べてくれて、かえって助かる」
「…………」

 そう言われてしまうとぐうの音も出なくて、一瞬言葉を呑む。でもここで負けるわけにはいかない。

「だけど毎日だぞ? 貰うにしても、さすがにそろそろ申し訳ないって……もう一週間を超えてる」
「うん、それは俺も思ってる。だからそろそろ終わりかな……」

 長い指を折って悠臣が数えているのは、おそらくプリンを貰っている——つまりはバイトへ行っている回数だ。

(毎日毎日……いったい何のバイトをしているんだ?)

 出だしに聞きそびれてしまったため、俺はそれをいまだに悠臣に聞けずにいる。
「おっ悠臣、今日もあのバイトか?」と、中学時代からの悠臣の友人たちはその内容を知っているふうなため、変な意地が働いてしまい、今更訊けないというのが一番の原因だ。

 遠回しな会話でわかっているのは、プリン屋で働いているわけではなく、バイト代とは別にお礼として、プリンを受け取っていること。
 初日に悠臣がとても喜んだため、翌日以降もプリンが渡されているということ。

(実際に大喜びしたのは、まあ……俺なんだけど)

 悠臣が自分からバイトについて語ってくれないものかと、チラッと表情をうかがってみる。
 おそらく無理だ。

 悠臣は自分のことをあまり語りたがらない。それは俺も同じで、だからこそ適度な距離感で、うまく一緒に暮らせているところがある。
 その環境を壊してまで、無理にバイトについて尋ねる気持ちはない。

(まあ、いいか……)

 そう思い続けて一週間強。初日こそ四個だったプリンは、次の日から二個に減ったものの、確実に毎日悠臣が持ち帰ってくる。

(そのうち並びきらなくなるぞ)

 ズラリと並んだ窓際のカップを眺め、やっぱり悠臣の言うように、それで花でも育ててみようかなどと考えた。