好きって言ったらキスしてくれる?

 委員会が終わり、寮へ帰ろうとしているところで、中谷に声をかけられた。

「あの、宝田君……よかったら、一緒に帰らない?」

 特に不都合もないので、俺はすぐに承諾した。

「ああ、いいよ」

 ほっとしたように中谷が俺の隣に駆け寄ってくる。
 少し離れたところにいる押上が舌打ちしたような気がしたが、ふり返って確認はしなかった。

 中谷と押上は寮で同室だが、よく押上が中谷にキレているところを見る。
 あまりうまくやれていないのかもしれない。
 初対面の相手と、始めから仲良くやれるほうが珍しいのだと、改めて思う。
 俺だって本当は、あまりとっつきやすい人間ではないと自分でわかっている。
 それなのに同室はもちろん、寮の同級生とも先輩たちとも、今のところ何の問題もなく過ごせているのは、ひとえに悠臣のおかげに違いない。

 そんなことを考えていたので、中谷の口からふいにその名前が出てきて、少しドキリとした。

「キタくんって、すごいよね……」
「え……」

 一瞬、俺の考えていたことがダダ洩(も)れていたのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。
 中谷は俺のほうを見ておらず、まっすぐ前を向いて歩きながら、少し暮れかけた空を見上げて話している。

「優しくって、みんなに好かれてて、なんでも出来て……」

 正直、本人の人柄以外の部分は、俺はまだ実感したことがなくて、中学から悠臣と一緒だった奴らからの刷り込みの知識しかないのだが、それだけでも中谷の言うように、「なんでも出来る」奴だというのは納得できる。

「そうだな」

 少し遅れて同意すると、中谷が俺に視線を移した。

「宝田君がうらやましいな……キタくんと同室で……」
「…………」

 そう思っている奴は多いのだろうが、面と向かって言われたことは初めてで、なんと答えていいのか困る。
 中谷は返答を待つように、じっと俺の顔を見ている。

 そうしていると、いつものびくびくした雰囲気はなく、ずいぶん可愛い顔をしているのだなと気がついた。
 それが誉め言葉になるか微妙だとは身を以って知っているので、あえて本人には言わないが——。

 俺が返事をしないので、中谷はまた口を開く。

「キタくんは、今日もいつものバイト?」

 悠臣がどんなバイトをしているのかなんて、俺は知らないが、中谷は知っているのかなどと、おかしなところに関心してしまう。

「いつもの、かは知らないけど、バイトだってさ」

 俺の正直な答えを、中谷はくすくす笑った。

「宝田君って面白いよね、話してみたかったんだ……委員会一が緒でよかった。これから一年間、よろしく」

 はにかむように笑いかけられて、俺はぎこちなく頷いた。

「よろしく……」

 むず痒(かゆ)いような気分だった。