結局、1週間放置していた。
次のグリーフケアは1か月後まで空きがないそうだ。今朝になってやっと予約の電話をしたときに畑中さんから、さすがに期間が空きすぎると、事前の個別面談を提案された。その予約も明日、日曜日。学校がある平日はいくらか気がまぎれるが、何もない土日はどうしようもない悲壮感に包まれてしまう。
「はあ。」
なんとなくiPhoneを手に取り、ママの写真を見なくて済むように、他に触るべきところを考える。そう、光に送られたURLもほったらかしだった。
ぽち。
青く表示された長いURLはゲームアプリのようなサイトにつながっていた。
ーー私はMEMORY。名前の変更が可能です。
「は? 何? MEMORYって。」
ーー私はMEMORY。誰にでもなれますとも。思い出の中のあの人に。
名前はMEMORYのまま、アプリの質問に答えていく。
ーーあなたが話したいのは?
「ママ」
ーー「ママ」さんのお名前は?
「工藤恵」
ーー「工藤恵」さんの電話番号は?
「それは個人情報」
ーー失礼しました。では、趣味は? 好きなものは?
「料理かな。好きなのは私が喜ぶ顔。」
それからも次々と質問に答えていく。10問ほどあったろうか。最後の質問である「あなたは『ママ』に出会えて幸せですか?」に「はい」と即答したところで、画面にモヤがかかり、丸顔に長い耳の生えたウサギのアバターが登場した。
ーー心、あなたの喜ぶ顔が見たかったわぁ。
「え?」
iPhoneが宙を舞い、カーペットの上にガチャンと着地する。少し語尾で息漏れする感じが、ママとそっくりだったのだ。
「なんで?」
ーーMEMORYの力を借りてね。最新のAIでママを再現しているの。
ウサギのアバターが笑わされているように笑みを浮かべる。
(気持ち悪い。)
言えない。目の前に居るのは、AIとはいえママだから。
「ちょっとお友達と話すね。元気でね。」
ーー心もね。ママのことは心配しないで。前よりずっと元気だから。
生前の、治療で弱りきっていたママより元気だということに妙なリアリティを感じたが、ここは心を鬼にしてアプリを閉じた。
ーー光さん、お疲れさまです。この前のURLって、何なんですか?
ラインに登録されていた彼女の連絡先にメッセージを送った。すぐに既読がつき、光の速さで返信が来る。
ーーおつかれ! あ、開いてみた? MEMORYってAIなんだ! うちのお母さんが開発した、亡くなった人と話せるアプリ。
ーー光さんのお母さんが?
ーーああ、うちのお母さん、生きてたときMITEO(未来・テクノロジー・オフィスの開発技術課長していて、非公式にこのアプリ作ってたみたいなんだよね。
MITEO。今や生活に欠かせない有名なIT企業だ。夢花が働きたいと名前を挙げていた会社だ。
ーーそうだったんですね。
ーーお母さんきっと、死んだあとにうちが寂しくないように残してくれたんだと思うの。すごくいいやつだから、ぜひ心ちゃんにもって思って。
ーーありがとうございました。
その後も何件か「お母さん自慢」なメッセージが来ていたが、未読のまま彼女の連絡先はブロックした。
「心、どうした?」
「いや、なんでもない。」
夕食になってもMEMORYのことが頭から離れない。ママがそこに居るかのようにリアルなのに、嬉しくない。でも、ママには会いたい。
矛盾した気持ちの堂々巡りで、難しい顔をしているのを、パパに心配された。
「こころのつどい、いつになった?」
「あぁ、子どもの開催日が少ないみたいで、1か月後になったよ。」
「そうか。」
「でも、畑中さんが『個人面談しましょう』って言ってくれて、明日行くことになった。」
「そうなんだ。」
パパは四角い顔をして、最小限の返事だけして聞いてくれる。この距離感が今の私には一番あっている気がした。
次のグリーフケアは1か月後まで空きがないそうだ。今朝になってやっと予約の電話をしたときに畑中さんから、さすがに期間が空きすぎると、事前の個別面談を提案された。その予約も明日、日曜日。学校がある平日はいくらか気がまぎれるが、何もない土日はどうしようもない悲壮感に包まれてしまう。
「はあ。」
なんとなくiPhoneを手に取り、ママの写真を見なくて済むように、他に触るべきところを考える。そう、光に送られたURLもほったらかしだった。
ぽち。
青く表示された長いURLはゲームアプリのようなサイトにつながっていた。
ーー私はMEMORY。名前の変更が可能です。
「は? 何? MEMORYって。」
ーー私はMEMORY。誰にでもなれますとも。思い出の中のあの人に。
名前はMEMORYのまま、アプリの質問に答えていく。
ーーあなたが話したいのは?
「ママ」
ーー「ママ」さんのお名前は?
「工藤恵」
ーー「工藤恵」さんの電話番号は?
「それは個人情報」
ーー失礼しました。では、趣味は? 好きなものは?
「料理かな。好きなのは私が喜ぶ顔。」
それからも次々と質問に答えていく。10問ほどあったろうか。最後の質問である「あなたは『ママ』に出会えて幸せですか?」に「はい」と即答したところで、画面にモヤがかかり、丸顔に長い耳の生えたウサギのアバターが登場した。
ーー心、あなたの喜ぶ顔が見たかったわぁ。
「え?」
iPhoneが宙を舞い、カーペットの上にガチャンと着地する。少し語尾で息漏れする感じが、ママとそっくりだったのだ。
「なんで?」
ーーMEMORYの力を借りてね。最新のAIでママを再現しているの。
ウサギのアバターが笑わされているように笑みを浮かべる。
(気持ち悪い。)
言えない。目の前に居るのは、AIとはいえママだから。
「ちょっとお友達と話すね。元気でね。」
ーー心もね。ママのことは心配しないで。前よりずっと元気だから。
生前の、治療で弱りきっていたママより元気だということに妙なリアリティを感じたが、ここは心を鬼にしてアプリを閉じた。
ーー光さん、お疲れさまです。この前のURLって、何なんですか?
ラインに登録されていた彼女の連絡先にメッセージを送った。すぐに既読がつき、光の速さで返信が来る。
ーーおつかれ! あ、開いてみた? MEMORYってAIなんだ! うちのお母さんが開発した、亡くなった人と話せるアプリ。
ーー光さんのお母さんが?
ーーああ、うちのお母さん、生きてたときMITEO(未来・テクノロジー・オフィスの開発技術課長していて、非公式にこのアプリ作ってたみたいなんだよね。
MITEO。今や生活に欠かせない有名なIT企業だ。夢花が働きたいと名前を挙げていた会社だ。
ーーそうだったんですね。
ーーお母さんきっと、死んだあとにうちが寂しくないように残してくれたんだと思うの。すごくいいやつだから、ぜひ心ちゃんにもって思って。
ーーありがとうございました。
その後も何件か「お母さん自慢」なメッセージが来ていたが、未読のまま彼女の連絡先はブロックした。
「心、どうした?」
「いや、なんでもない。」
夕食になってもMEMORYのことが頭から離れない。ママがそこに居るかのようにリアルなのに、嬉しくない。でも、ママには会いたい。
矛盾した気持ちの堂々巡りで、難しい顔をしているのを、パパに心配された。
「こころのつどい、いつになった?」
「あぁ、子どもの開催日が少ないみたいで、1か月後になったよ。」
「そうか。」
「でも、畑中さんが『個人面談しましょう』って言ってくれて、明日行くことになった。」
「そうなんだ。」
パパは四角い顔をして、最小限の返事だけして聞いてくれる。この距離感が今の私には一番あっている気がした。



