私はよく夢を見る方だ。
 ママが亡くなって3か月。一番登場回数が多いのはママ。最初は夢でしか会えないママにリアルでは会えない寂しさを感じてばかりだったけど、今では夢でしか会えないママのぬくもりを楽しみにしている。

 「おつかれ!」

 「おつかれ〜って、ママじゃん!」

 視聴覚室の作り付けの椅子を立つと、後ろからママに声をかけられた。

 「だから、めぐちゃんだって!」

 「めぐちゃん、おつかれ!」

 「あ! 夢花のママ!!」

 「私はあいちゃんね。」

 私の隣にはいつの間にか夢花のママ愛花さんもいる。3人で外に出ると、知らない公園だった。

 「あそこでお茶しよ!」

 「あいちゃん」さんが指さしたのは、突然現れたイオンのカフェだった。
 いつの間に注文したのかピザと抹茶と、コーヒーが出てくる。

 「心はまだコーヒー飲めなかったね。」

 と、「めぐちゃん」が追加でオレンジジュースを注文する。完全に2人のペースで、バクバクピザが減っていく。

 「そんなに一気に食べられないよ。」

 「じゃあ心も自分のペースで食べればいいじゃない。欲張りすぎなのよ。」

 ママは小言を言うようにすねながらピザを食べ続けている。

 「あ、私はもう、人生謳歌しないとね。」

 ウインクをしながら、ケーキもパフェも、どんどん食べていく。

 「人生謳歌かぁ。」

 「心ちゃんはまだ若いんだから、ゆっくりでいいのよ。でも、夢花と同じように楽しみたいわよね。」

 「うん。」

 少し下を向いて、もう一度顔を上げると、何もない野原に立っていた。

 「ママ、どこ?」

 あたりは風が吹くばかり。ピザもケーキもパフェもない。

 「どこ行ったの?」

 ーーどこにも。

 「どこにいるの? いるのはわかってるんだよー。」

 声はするのに、どこにも見当たらない。

 ーーどこにも行ってないわ。

 「どこにも行ってないなら、顔見せてよ。」

 ーーうーん、難しいわね。

 「どうして?」

 風は渦を巻いて私の肩に冷たい空気をまとわりつかせている。風と逆向きに一回転してみても、野原が広がるばかり。

 ーー心の中にいるから、心には見えないかな。代わりにこの子で許して。

 「この子って、誰? どこ?」

 一筋の温かい空気を感じると、私の手にはiPhoneがあった。その画面を開くとMEMORYのウサギのアバターがウインクしていた。

 「だから、これはママじゃないって言ったじゃない!」

 自分の叫び声で目が覚めた。

 「また叫んじゃった。」

 叫んで起きたときにはいつも罪悪感がある。今日はママに叫んでしまったのだから、なおさら。

 「おはよう。」

 起きてリビングに行くと、まだパパは起きていなかった。

 「ママおはよう。今日も叫んじゃった。びっくりさせてごめんね。」

 遺影のママは今日も変わらない笑顔で家族の真ん中にいる。

 「おはよう。おう、早いな。」

 「パパおはよう。ちょっと叫んじゃう夢見ちゃって、起きちゃった。」

 「そっか。それは嫌なやつだな。」

 私は目覚ましがわりに首を高速で横に振る。

 「でも、ママいたの! だから嫌なだけじゃない夢。」

 「そっか。よかったな。今日はこころのつどいだっけ?」

 「うん。」

 今日は待ちに待った2回目のグリーフケアの日だった。自分の気持ちをちゃんと話せるように、何度も何度も原稿を頭の中に書いてきた。

 「パパはイオンでも見てるから、終わったらランチしないか?」

 「え、いいの? 嬉しいなぁ。」

 ニヤッとおねだりの目を見せてみる。

 「まったく。こういうところはママそっくりなんだから。朝ごはん頼んでいいか?」

 「うん、任せて!」

 ごはんを作るといっても、ただ食パンを焼いてジャムを出すだけなんだが。私がキッチンに立つと、パパの四角い顔は少しだけ丸くなる。きっとママがキッチンに立っていた時と同じ顔なんだろうと勝手に思っている。
 冷凍庫から食パンを出す。そうすると左手がiPhoneで塞がっているのに気づいた。

 「ちょっと待っててね。」

 iPhoneだけに聞こえるように小さく言って、作業台にiPhoneを置く。公式ラインの通知で画面が光る。
 このiPhoneにはMEMORYの URLが入っている。光の連絡先をブロックして以来、一度も触っていない URL。これはママじゃないけど、どうしても必要になった時のお守りとして。でも、私は遺影に話しかけるだけで、夢で会えるだけで充分だけどね。

 チン!

 「ごはんできたよー。」

 ママの代わりにごはんを作って、私の1日が動き出す。