「今日はどうされました?」
畑中さんのアドバイスもあり、私の足は再び市立病院の精神科に向いた。前に来た時よりも診察室のソファが深く沈んで、居心地が良い、「帰ってきた場所」になっていた。
「実は、グリーフケアで知った悲しみの乗り越え方について、もどかしいところがあって。」
小泉先生も馴染みの看護師さんたちも、親身に話を聞いてくれた。
「その子のお母さんが作ったAIって言ってたんですけど、なんか嫌なんですよね。ママと話したくて仕方ないけど、それは嫌って感じで。」
「ちなみに、その子…、あー誰だっけ?」
「光さんって言ってました。同じ八高の。」
「あー、そう! 光さん! その子も高校生なんですね。」
先生はその後も親身に話を聞いてくれた上で、畑中さんと同様、私の気持ちは自然だと説明してくれた。
「AIって、そもそもが胡散臭いですからね。科学者の端くれである医師が言うのもアレですが…。なんか下手な似顔絵だって、大切な人が描くから愛おしいでしょ? 見ず知らずのやつに「さも知っています」みたいに描かれたら気持ち悪いじゃない。まだ発展途上だからねぇ。」
先生はパソコンに向かいながら、AIを受け流す方向に話を進めてくる。
「心ちゃんが欲しいのって、ママのぬくもりだもんね。言いそうな言葉じゃなくて。」
看護師さんが口を挟んでしまい、慌てて口を塞ぐ。
「いいんですよ、看護師さんの言う通り! 工藤さんのやり方で受け入れていけばいいんです。夢に出てきたママさんと話したり、遺影に話しかけてみたり。いいじゃないですか。」
「…だってさ! 私はママのこと、『AI母さん』だとは思ってないからね!」
パパが帰ってくるまでの時間、リビングの遺影前で今日の診察について報告する。
「まったく! 先生はAI母さんと夢に出てくるママを同列に話してたけど、全然違うんだから!」
遺影のママは相変わらず微笑んでいて、隣のかすみ草が白く光っている。
「私が話してるのだって、MEMORYに話すのとは違うんだから。ママに聞いて欲しいんだから!」
かすみ草の粒がクリアになって、そしてにじんでいく。鼻の奥が熱く、膝の上に温かい雫が落ちる。
「ただいまぁ。どうした?」
こんなタイミングでパパが帰ってきてしまった。自分がどんな顔をしているかも考えず、両手を広げてスーツ姿のパパにしがみつく。
「どうしたんだ? もしかして病院、どこか悪くなってたか?」
パパの四角い顔の真ん中にハの字眉が出来上がる。涙をワイシャツにこすりつけるように、力強く首を横に振る。
「じゃあ学校か? もしかして進級の話?」
もう一度、さらに強く首を振って、ギュッと身体を抱き寄せる。
「ぬくもりが欲しいの。」
「え?」
贅肉に私の声が吸収されて、ほとんど聞こえていないようだ。スーツから顔を離して、フローリングに反響させるように繰り返した。
「ママが居ないなら、パパのぬくもりが、今は欲しいの!」
畑中さんのアドバイスもあり、私の足は再び市立病院の精神科に向いた。前に来た時よりも診察室のソファが深く沈んで、居心地が良い、「帰ってきた場所」になっていた。
「実は、グリーフケアで知った悲しみの乗り越え方について、もどかしいところがあって。」
小泉先生も馴染みの看護師さんたちも、親身に話を聞いてくれた。
「その子のお母さんが作ったAIって言ってたんですけど、なんか嫌なんですよね。ママと話したくて仕方ないけど、それは嫌って感じで。」
「ちなみに、その子…、あー誰だっけ?」
「光さんって言ってました。同じ八高の。」
「あー、そう! 光さん! その子も高校生なんですね。」
先生はその後も親身に話を聞いてくれた上で、畑中さんと同様、私の気持ちは自然だと説明してくれた。
「AIって、そもそもが胡散臭いですからね。科学者の端くれである医師が言うのもアレですが…。なんか下手な似顔絵だって、大切な人が描くから愛おしいでしょ? 見ず知らずのやつに「さも知っています」みたいに描かれたら気持ち悪いじゃない。まだ発展途上だからねぇ。」
先生はパソコンに向かいながら、AIを受け流す方向に話を進めてくる。
「心ちゃんが欲しいのって、ママのぬくもりだもんね。言いそうな言葉じゃなくて。」
看護師さんが口を挟んでしまい、慌てて口を塞ぐ。
「いいんですよ、看護師さんの言う通り! 工藤さんのやり方で受け入れていけばいいんです。夢に出てきたママさんと話したり、遺影に話しかけてみたり。いいじゃないですか。」
「…だってさ! 私はママのこと、『AI母さん』だとは思ってないからね!」
パパが帰ってくるまでの時間、リビングの遺影前で今日の診察について報告する。
「まったく! 先生はAI母さんと夢に出てくるママを同列に話してたけど、全然違うんだから!」
遺影のママは相変わらず微笑んでいて、隣のかすみ草が白く光っている。
「私が話してるのだって、MEMORYに話すのとは違うんだから。ママに聞いて欲しいんだから!」
かすみ草の粒がクリアになって、そしてにじんでいく。鼻の奥が熱く、膝の上に温かい雫が落ちる。
「ただいまぁ。どうした?」
こんなタイミングでパパが帰ってきてしまった。自分がどんな顔をしているかも考えず、両手を広げてスーツ姿のパパにしがみつく。
「どうしたんだ? もしかして病院、どこか悪くなってたか?」
パパの四角い顔の真ん中にハの字眉が出来上がる。涙をワイシャツにこすりつけるように、力強く首を横に振る。
「じゃあ学校か? もしかして進級の話?」
もう一度、さらに強く首を振って、ギュッと身体を抱き寄せる。
「ぬくもりが欲しいの。」
「え?」
贅肉に私の声が吸収されて、ほとんど聞こえていないようだ。スーツから顔を離して、フローリングに反響させるように繰り返した。
「ママが居ないなら、パパのぬくもりが、今は欲しいの!」



